2015.12.15
# 現代新書 # 本

「人材派遣業」の闇〜あまりにブラックすぎる実態を潜入レポート

中沢 彰吾

これのどこが「特別なスキルを生かした熟練労働」なのか?

派遣労働者は朝7時集合を命じられマニュアルを読まされたが、時給がカウントされたのは8時から。労働者派遣法と労働基準法では、派遣労働者が派遣先の指揮命令下に置かれる7時から賃金が発生するはずなのに……。

労働者を問答無用でクビにするのも違法ではないか。労基法では解雇事由を就業規則の絶対的必要記載事項と定めている。そして、労働契約法では、使用者が解雇権を行使する場合、就業規則上列挙されている解雇事由に該当する事実をあげ、かつ当該解雇が社会通念上相当であると認められない限り、解雇権濫用法理として、無効とされるのだが……。

近年解禁された派遣労働について、政府・厚生労働省は「特別なスキルを有し」「十分な実務能力を持った」「熟練労働者」を「労働者の希望する時間に」「適材適所で」派遣し、高度なスキルに見合った報酬と待遇が保証される、「労働者にとって有益な雇用形態」としている。

だが、それは詭弁に過ぎない。あとに詳しく記すが、製菓工場の塩素ガスがたちこめる密室で6時間にわたって「イチゴのへた取り」をさせたり、倉庫内でカッターナイフを振るう「ダンボール箱の解体」を1日中させたりする仕事のどこが「特別なスキルを生かした熟練労働」なのか。

今や人材派遣は「使いたい人数を安価に、必要最低限の時間だけ単純労働に従事させ、人事責任を負わない」という派遣先企業にとって、すこぶる好都合な制度になっている。数々の違法待遇に加えて、労働者の経験やスキル、人間性、人権をも無視した奴隷に近い労働形態が横行している。

私は過去1年間、一般人材派遣業許可を有する多くの人材派遣会社に登録して就業した。人材派遣会社や派遣先の違法行為を指摘するたびに「派遣のクズが……」と罵倒され、ほとんどの場合、即時解雇となった。

「蟻の一穴」という言葉がある。巨大な堤防も蟻が開けた微細な穴から崩れていくというたとえだ。人材派遣会社は労働者集団がおとなしければこそ、好き勝手に搾取して利益を上げられる。このため、一人の労働者の反発がまわりに伝染して多くが反抗的になることを彼らは最も恐れる。だから私のような人間は不満分子と見て早めに排除する。そこに遠慮やためらいはない。

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