
大会前のW杯勝利数は南アフリカ25に対し、日本はわずか1。しかし使命感に燃えるサクラ戦士は勝利を信じた。奇跡の瞬間、教え子たちは「師匠」を超えた。
目に見えない力
野中敬義 ワールドカップ(W杯)史上最大の番狂わせとなった南アフリカとの激闘からもう3ヵ月が経ちますが、ラグビー人気は衰えを知りません。
荒木香織 W杯に行く前は想像すらできなかった状況ですよね。
佐藤秀典 私がチームの通訳に就いたのは今年の4月からですが、5月に秩父宮で行われたアジアラグビーチャンピオンシップの試合でエディ(ジョーンズ)さんが「今年はW杯イヤーで記者の数も増えたけど、ヘッドコーチ(HC)就任1年目の'12年はライター二人と犬1匹だけだったよ」と話していたのを思い出します。
野中 荒木さんは、エディジャパン結成時からメンタルコーチとして携わってこられましたが、南アフリカ戦はどこにいましたか?
荒木 スタンドにいましたが、当初W杯に行く予定はなかったんです。昨年9月に生まれた子供の育児に追われていて、日本のTVで応援するつもりでした。でも、エディさんから再三「選手からの要望だから」と説得され、急遽、子供と一緒に現場に行くことに決めました。
佐藤 私はエディさんと一緒に、スタンドにあるバルコニーで見ていたので、観客の歓声がダイレクトに聞こえました。接戦のまま迎えた後半、日本がボールを持ったり、タックルすると「ジャパン」「ジャパン」と大声援。あれには鳥肌が立ちました。
荒木 試合の数日前にスクラムコーチのマルク(ダルマゾ)が「W杯はすごく独特で、スタジアムのお客さんが日本を応援するようなコールをし始めたら、勝つ可能性がある」と話していた。これがそうなのかと感じました。目には見えないけど、人のエネルギーは後押しになる。約3万人の観衆が応援してくれたら、できないこともできるんです。