シマジ それは幻覚というより本当のような話ですね。
塩沼 幻覚なのか夢なのか、何なのかよくわからない世界です。ところが3年目が終わるころから、そういう怖いものは一切みなくなりました。反対に今度は、キレイな世界がみえるようになったんです。
あるとき、金色の光のなかで天女が3人舞い、こちらにいらっしゃいと手招きしていました。近づいてみますと、その天女から袋に入った金剛石を渡されました。天女は何もしゃべらないんですが、「あなたの行くところにはまだまだ上がありますよ」という声が聞こえてきて、これはご褒美なのかなと思いました。
ふと上をみると、螺旋階段があって、その先はまたスーッと真っ暗な闇の山道になったいました。そんなことがありつつも、後半の3分の1は何もみなくなりました。
シマジ 亡霊からだんだん天女になっていって、そのあとは何にも遭遇しなかったんですか?
塩沼 あ、そういえば、仏さまはよくみました。
シマジ それは塩沼さんという人間がだんだん解脱していく過程だったんでしょうね。
塩沼 そうだと思います。そのころになると、岩場に座っておにぎりを食べていると、小鳥が肩の上に乗ってきたりしました。多分、鳥たちもわたしの存在が怖くなくなったんでしょう。徐々にそういう自分になっていったんだと思います。
シマジ それは夜のはなしですか?
塩沼 明け方です。
立木 シマジ、お前こそ幻覚をみているんじゃないの。小鳥が夜飛ぶと思うか?
シマジ そうか。でもコウモリがいるかもしれない。
ヒノ コウモリが肩にとまったらめちゃめちゃ怖いでしょうね。
立木 おいおい、ヒノ、お前もまだ幻覚のなかにいるんじゃないか?
塩沼 明け方、小鳥が数羽わたしの周りに寄ってきて、ごはん粒をあげるとチュンチュンいって一緒に食べたり、あとは、きっと巣に持っていくんでしょうね、わたしの法衣の麻地の糸くずをつまんで、喜んで飛び立っていきました。動物たちがだんだんわたしを怖がらなくなってくるんです。