
電気も水道もない富良野の地で、一から出直す五郎さんの姿は日本中の感動を呼んだ。しかし、本当の意味で五郎さんのメッセージは伝わっていたのか。脚本家の倉本聰氏はいま、疑問を感じている――。
経済的な豊かさと幸福は別のもの
残念な話ですが、今の日本人の「幸福度」は決して高いと言えません。
'15年発表の国連の調査によると、世界中で最も幸福度が高い国はスイス。以下、アイスランド、デンマークと続き、日本は国内情勢が安定しているとは言いがたいベネズエラやウズベキスタンより低い46位に位置しています。日本には戦争も内乱もなく、世界的に見て先進国と呼ばれるのに、不思議なものです。
その理由の一つは、多くの日本人が、経済的に豊かになりさえすれば、幸福も得られると誤解してきたからではないでしょうか。
しかし、経済的な豊かさと幸福は別のものです。多くの日本人はそれに気付かないから、いつまでたっても幸福になれない。そんな気がしてなりません。
『北の国から』や『前略おふくろ様』などの脚本家・倉本聰氏。氏は今年1月16日公開の舞台『屋根』の脚本も手がける。「時代に流された人々の暮らしの歴史を、屋根だけがじっと見つめてきた」と紹介されたこの舞台は、日本の農村、家族史を描いている。演じるのは倉本氏が育てた富良野塾の卒業生たちだ。
人間は欲望を追い求めはじめたらキリがありません。永遠にゴールにはたどり着けない。
たとえば、昭和30年代の日本では、冷蔵庫と洗濯機、白黒テレビが「三種の神器」と呼ばれ、豊かな暮らしの象徴でした。人々はこれを手に入れようと懸命に働いた。