Revolutionのニュアンス
ところで今、「変化要因」と表現したものはいずれもRevolutionのことである。この言葉について少し触れてみよう。
もともとRevolutionという言葉は「公転」、すなわち、地球が太陽の周りを回ることを意味しており、人の手の及ばない自然の理に根ざした現象という意味を帯びていた。
たとえば産業革命(Industrial Revolution)とは「産業技術が不可逆の社会変化をもたらすこと」である。ナイムが「3つのM」に用いたRevolutionも、この「人の手の及ばない不可逆な変化」というニュアンスだ。
一方、「革命」という訳語は、古代中国の易姓革命に由来し、天命に則った政治体制の転覆を意味する(「天命を革(あらた)める」が原義)。大変化のRevolutionが政治体制の転覆に使われたのは、王政から共和政への大転換たるフランス革命が最初だとされる。
このように英語のRevolutionとは第一に「不可逆の大変化」を指しており、その一つが(日本語の「革命」としてまず想起される)政治体制の転覆である。裏返すと、Revolutionの訳語としての「革命」には、「人間の意思による社会変化」というニュアンスを必ずしも伴わないものもあるということだ。
たとえば本書でもThe Mentality Revolutionが無造作に「意識革命」と訳されているが、これは社会環境がもたらした「人びとの規範/価値観等における不可逆の大変化」のことである。決して自らの意志で考え方を改める「意識改革」のことではない。主体的に何かを変えようとする意志とは関係のない変化のことである。
イノベーションを指南する経営書の翻訳にはしばしば「革命」という訳語を見かけるが、その多くは人間の意志とは関係なく生じる自然的な不可逆変化のことである。人間による主体的意志を伴う政治的変革という意味との違いを意識することで理解が進むことは多い。
ともあれ、ナイムの3つのMの大変化=革命は、いずれもIT登場以前の国際的な政治経済情勢に基づくものであり、それらが従来からある権力を衰退させている。
では、この議論からザッカーバーグはどんなヒントを得たのか。