2016.01.23
# 本

ザッカーバーグはこれを読んで「未来」を見通している?

全米で話題のベストセラー『権力の終焉』
池田 純一 プロフィール

ザッカーバーグが見据える未来

ところで、上場後世界的な資産家の仲間入りを果たしたザッカーバーグは、自ら得た「力の振るい方」を模索している。公的機能を政府ではなく民間で提供しようとするフィランソロピーに、彼は強くコミットしてきている。

当初は、ウォーレン・バフェットやビル・ゲイツの誘いに乗る形で個人資産の公的利用のための誓約に賛同するぐらいだったが、徐々に関心を高め、先日、第一子が生まれた際には、未来の世代のためのチャリティを目指してChan Zuckerberg Initiative(CZI)を立ち上げた。

CZIはLLC(有限責任会社)として設立された。20世紀初頭からフィランソロピーの受け皿として活用されてきたファウンデーションではなく、法人とパートナーシップの中間形態といわれるLLCを選択したのは、その方がザッカーバーグのイメージするチャリティに適した高い自由度を確保できると考えたからだ。

彼は、従来なら別組織で行われてきた、民間企業への研究開発投資、政治的活動への関与、非営利法人への資金援助、の三つを一つの組織で連携して行いたいと考えた。こうして民間主体で公共的役割を果たす「力(≒権力)」もまた変質を迎えている。

近代的なフィランソロピーやチャリティの誕生は18世紀のイギリス社会に遡る。当時のイギリスでは、新興の(貴族ではない)ジェントリ層が中心になってCivil Societyすなわち「民間公共社会」が形成されつつあった(近藤和彦『イギリス史10講』)。

その慣習は、19世紀末の鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの登場以来、アメリカ社会にも根付いている。その「力」のあり方をもザッカーバーグは変革しようとしている。

こうした試みは、ナイムの指摘する20世紀型の権力が衰退する中で、新しい力の配置を編みあげることを目指しており、おそらくは分権分散型の新しい社会を模索する動きの一つである。

そうしてミレニアル世代は、彼らが活躍する20年後、30年後の社会を具体的に形作り始めている。

池田 純一(いけだ じゅんいち)
1965年生まれ。FERMAT Inc.代表。コンサルタント、Design Thinker。コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了(MPA)。早稲田大学大学院理工学研究科修了(情報数理工学)。電通総研、電通を経て、メ ディア・コミュニケーション分野を専門とするFERMAT-Communications Visionary-を設立。著書に『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』、『デザインするテクノロジー』、『ウェブ文明論』など。 最新刊は『〈未来〉のつくり方』(講談社現代新書)。

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