日銀・黒田総裁が温存する「最後のカード」~デフレ脱却の「壮大な実験」、いよいよ最終局面へ

日銀は1月29日の金融政策決定会合で、マイナス金利の導入を決めた。黒田東彦総裁が、導入した異次元緩和は歴史的な転換点を迎え、日本の金融政策は、さらなる未踏の領域へと足を踏み入れた。
黒田日銀の賭けは、原油安と中国経済の崩壊懸念がもたらした国際的な金融市場の動揺を抑え込み、日本経済をデフレ脱却へと導くことができるのか――。黒田バズーカ第3弾となるマイナス金利の効果と可能性を、『黒田日銀 最後の賭け』の著者・小野展克氏が検証する。
文/小野展克(嘉悦大学教授)
「明らかに迫力不足だ」
「具体的には考えていない」
1月21日の参院決算委員会で、黒田はマイナス金利導入の可能性をはっきりと打ち消していた。市場やメディアの期待値を引き下げ、サプライズを演出する手法は、2014年10月に放ったバズーカ第2弾の再現だ。
しかし、市場の反応は、複雑だった。日経平均株価(225種)は、いったんは前日比で600円近くも急伸したが、一転して200円超のきつい下げとなった後、再び上昇へと転じ、476円高の1万7518円でこの日の取引を終える荒い値動きとなった。
「マイナス金利の導入は驚きだったが、市場に与えるインパクトが足りない。明らかに迫力不足だ」
有力金融機関の市場担当者は、黒田の一手にこう疑問符を付けるが、黒田劇場は当日の市場では、前回のような手放しの拍手を湧き起こすことができなかったのだ。
マイナス金利の効果は不透明
お金を預けるとお金が減少していくというマイナス金利の導入は衝撃的だった。ただ、既に欧州中央銀行(ECB)やスイス銀行などでも導入されており、世界の「中央銀行サークル」では、もはや手垢の付いた手法に過ぎない。
マイナス金利は、金融機関が日銀に眠らせていた資金に金利を課すことで、強引に放出させる仕掛けだ。黒田は金融機関に、融資先を前向きに発掘し、株式や外債などで資金を積極的に運用するインセンティブを与えたのだ。