2016.02.12
# 雑誌

前田智徳ロングインタビュー
「あなたがいたから、プロで24年やれました」

元広島スカウト宮川孝雄氏に捧ぐ
週刊現代 プロフィール

この時期、キャンプの中旬には宮川さんから差し入れがありました。僕はお酒が飲めないのですが、甘いものに目がない。宮川さんの差し入れは粒あんの大判焼きを12個。キャンプでは昼飯をほとんどとらずに打ちこんでいましたが、この大判焼きを2個食べれば、十分に腹持ちしたんです。宮川さんの気持ちが、僕のお腹を満たしてくれました。

翌'02年に3シーズンぶりに打率が3割に復帰。カムバック賞もいただきました。'05年には146試合全試合に5番・左翼で先発。現役生活最多となる172安打を放つことができた。プロ18年目の2007年、ようやく2000本安打を達成できたことが、数少ない恩返しのひとつです。

僕が完成を目指した「究極の打法」は、けがのため23歳で断念しました。しかし、体が万全でなくても、技術でカバーして、チームが求める大事な場面で打つ。それで、チームもファンも喜んでくれる。それも一つのプロの技なのだ、と思えるようになりました。そう考え方を改めることができたのも、引退の決意を告げたとき、やんわりと現役続行に仕向けてくれた、宮川さんのおかげにほかなりません。

評論家の仕事をはじめて3年目になります。周りの方は「ネット裏から3年野球を見ると、ユニフォームを着たくなる」と言いますが、今の僕は、宮川さんが亡くなったショックが大きく、その元気はありません。ただ将来、若い選手を教える機会に恵まれたら、煙たがられても、宮川さんの教えを伝えたい。

「握ったバットが手から離れなくなるくらい振れ」

プロの本当の厳しさを正直に伝える。それが、真の優しさですから。

「週刊現代」2016年2月13日号より

関連記事