「アメリカの真の支配者」コーク一族がトランプの暴走を静観する理由

古村 治彦

コーク兄弟とトランプの「共通の敵」

具体的には、共和党内のネオコン勢力に打撃を与えようとしているのではないかと考える。ネオコン勢力と民主党の人道的介入主義勢力との親和性は高い。所属している党が違うだけで、主張していることはほぼ同じだ。

ネオコン勢力の起源をたどると、民主党の外交政策がタカ派的になったことに不満を持った人々が、大挙して共和党に移ってきたことから始まっている。

このネオコンに対して、「元々民主党ではなかった人間たちが大挙して共和党に入ってきて、ジョージ・W・ブッシュ前政権時代に外交政策と国家安全保障政策を牛耳り、必要のないイラク戦争を引き起こしてアメリカを泥沼に引きずり込んだ」という怒りがコーク兄弟にはある。

前述したように、トランプに対しては共和党の外交専門家たちが公開書簡の形で批判をしているが、書簡に署名した中には多くのネオコンに分類される人物たちが入っている。トランプはイラク戦争についても失敗だったとはっきり述べており、イラク戦争を推進したネオコンにしてみれば、まさに敵である。

そして、コーク兄弟もネオコンを敵視するということになると、ネオコンはトランプとコーク兄弟にとって共通の敵となる。結果として、いまだに共和党の外交政策分野で大きな影響力を持つネオコンを叩くために、コーク兄弟は、トランプを阻止する動きには出ず、トランプを使って共和党に荒療治を加えることができる、というわけだ。

このように考えると、現時点までのコーク兄弟の行動を説明することができる。彼らもまた「怒れる共和党支持者たち」と同じく、現在の共和党に対して不満と怒りを持っている。今回のトランプ旋風を利用して共和党を変革しようとしていると考えることが可能だ。

アメリカ政治における思想対立を大きな軸にしながら、これから共和党の予備選挙は後半戦を迎え、ますます激しさを増し、眼を離せない状況になっていくだろう。

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古村治彦(ふるむら・はるひこ)
1974年、鹿児島市生まれ。愛知大学国際問題研究所客員研究員、副島国家戦略研究所(SNSI)研究員。早稲田大学社会科学部卒業、大学院社会科学研究科修士課程修了(修士)。南カリフォルニア大学大学院政治学研究科中退(政治学修士)。著書に『アメリカ政治の秘密』『ハーヴァード大学の秘密』(ともにPHP研究所)、訳書にパラグ・カンナ『ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方』(講談社)、ロバート・ケーガン『アメリカが作り上げた"素晴らしき"今の世界』、オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(ともにビジネス社)などがある

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