
2014年11月に消費増税の延期という英断が下されたのは、その直前に行われた「安倍-クルーグマン会談」が決め手となった。当時と状況は似てきた。日本の中枢の「腹の内」はもう決まっている。
首相官邸の4階で
私はこの3月22日、東京・永田町の首相官邸に出向き、ひとつの重要な会談に出席しました。
出席者は、安倍晋三総理をはじめ、麻生太郎財務大臣、黒田東彦日本銀行総裁、石原伸晃経済再生担当相、菅義偉官房長官など、いずれも日本の経済政策の責任者たちです。
会談場所は首相官邸4階の大会議室です。
「本日はアベノミクスの政策について、忌憚のない御意見をいただきたい」
まず始めに安倍総理が挨拶をしました。
続いて私が自分の意見を10分ほどプレゼンテーションして、それをもとにみなでディスカッションをしたのです。
この日、私は彼らとともに、世界や日本の経済の見通し、最近の金融市場の動向、世界各国の経済政策の分析などについて、大いに議論をしました。その中身については後ほどお話ししますが、議論は25分ほどに及ぶ濃密なものとなりました。
日本政府から会談への参加を依頼された当初、会談終了までは参加依頼を受けたことを公にしないように言われていました。いつどこでどういうテーマで議論をするのかさえ、明らかにしないようにという厳重なものです。
日本政府が「極秘(strictly confidential)」としたのは、それほどまでに本音での議論を交わしたかったからでしょう。
さて、私はこの日、安倍総理にいくつかの重要なメッセージを伝えました。
そのひとつは、日本政府が来年4月に予定している消費税の増税、8%から10%へ上げるという消費増税をやめるべきだ、ということです。
いまから遡ること約1年半前、'14年11月6日に私と安倍総理は首相官邸で会談をしています。当時の安倍総理は、'15年10月に消費税増税をするかどうかの判断を迫られていた最中で、私は意見を求められる形で首相官邸に招かれたのです。
当時の私は、
「日本はデフレからの脱却を最優先すべきだ」
「消費増税はデフレから脱却するまではやるべきではない」
と進言しました。私の意見をうなずいて聞いていた安倍総理は、会談から約2週間後の11月18日、「増税延期」を宣言しました。その一報を聞いて、私はホッとしたのをいまでも思い出します。