間違った認識が広まる危機感
――がんの場合、病理診断ではっきりと分かるものですか?
一目でがんと分かるものから、そうでないものまで色々あるというのが実際です。おそらく、一般の方が思われるよりは、腫瘍が良性なのか悪性なのか、判然としないものが多いと思います。だから、主治医がつける「臨床診断」が誤っていることもありますし、病理医同士でも病理診断に関する意見が分かれることもあります。
患者さんの中には、「担当医がいつもはっきり説明してくれない」、とか「診断もわからないのか」という不満をもつ人もいるようです。ですが、舞台裏では、病理医も担当医も様々な情報から、「病気の実像」を慎重に見極めようとしているのです。
――分かりにくいがんとはどんなものですか?
いくつかのパターンがあります。非常に珍しい病気の場合は、もちろん診断に手こずります。その他では、単純なことのようですが採取した病巣の部位がズレていると正しい診断に到達できません。CT画像などをもとに組織を採取してもがんの周辺部だったということは珍しくないのです。また、がんは進行しながら悪性度を増していくものが多いため、非常に早期にはがんかどうかの判別が難しい場合もあります。
――ということは、治療も個々のがんやその状況で変わるということですね。
そうです。がんの病理診断も単に「〇〇がん」というだけではなく、それぞれのがんで治療のために調べる細かい項目が増えてきています。さらに、患者さんの年齢や他の持病との兼ね合いなどでも治療法の選択は変わってくるでしょう。
ですから、インターネットで闘病記を綴ったブログなどもあふれていますが、鵜呑みにするのは危険だと思います。他人のがん治療などの情報が自分の場合に役立つのか否かの判断は、患者さん自身ではますます難しくなってきているからです。
もちろん発信者は善意で行ってらっしゃる場合もあると思いますし、心構えなどは参考になるかもしれませんが、その治療や経過などについてはあくまで一つの例だと思っておくのが無難でしょう。
――芸能人のがん闘病ニュースは大きな影響力があります。そういう報道を病理医の立場からどう見ていますか?
マスコミの影響力は本当にすごいと思います。それだけに、ニュースやワイドショーで情報を発信する側が、がんについて理解していないな、と感じるケースも時々あり、気になりますね。説明や用語の使い方が間違っていることもありますし…。
たとえば、ある女優さんの訃報で、「血液検査でも見つけにくい10万人に1、2人の希少がん」と伝えられていましたが、こういう報じ方をすると、知らず知らずに「珍しいがんでなければ血液検査で見つけられる」と思ってしまうなど、誤った情報が刷り込まれていってしまう危険があるのです。このような積み重ねが、がんに対する誤解を生む原因の一つではないかと思います。
「食事でがんが治る」といったようなタイトルの本もたくさんありますね。さすがに「がん」が食事でなくなることはないと思いながらも、目にする頻度が高くなると、潜在意識の中に入り込んでしまうのではないかと危惧します。