
家に戻って僕の書斎を開けると、本棚の本が床に散在していたが、家の中での被害といえばそれくらい。割れ物もなかった。僕は揺れを経験していないからか、へっちゃらだとすら思っていた。
4人の子供たちはまったく眠れないようで、徹夜に近い状態だったのに、それでも夜遅くまで起きていた。緊張していたのだろう。僕はどうにか彼らの緊張を解きたいと思い、書斎からギターを持ち出した。そして、自作の歌をうたったのだ。
すると、子供たちはそこらじゅうにあるものを叩いて、リズムを作り出し、みんなで踊りながら合奏をはじめた。僕はそのとき、ギターを弾きながら実は余震が2度起きていたことに気づいていたが、彼らが楽しそうに踊っているので、黙っておいた。すると、アオがこう言った。
「さっき会った、幼稚園のともだちのママが、地震なんてサーフィンみたいなもんだから、波に乗るような感じで一緒に揺れればいいのよ、って教えてくれたんだけど、それ聞いて少しだけ怖くなくなった」
音楽も同じような感じだったのだろう。音に合わせて踊る。大地を踏みならして踊る。太古から続く「踊る」という行為は、もしかしたら、このように地震の恐怖を鎮静するために生まれたのかもしれないと思った。
アオは昨日、電話で感じていたよりも勇気を持っているような気がした。最後には、アオは大きな声でソロで僕の歌を高らかにうたい、久しぶりに笑った。
そろそろ寝る時間だよと伝えると、アオはテーブルの下でないと眠れないという。そこで布団をテーブルの下に持ち込んだ。それでもアオは眠れない。僕はパソコンを開いて、現在執筆中の小説「ふなねずみ」をゆっくり読み聞かせた。アオとメイとユメがゆっくり聞いている。
ゲンはフーと一緒に早めに寝た。フーも疲れているのだろう。姉のアヤコも寝ている。さすがに恐怖と徹夜はきつい。僕はたまたま14日に東京にいたので、地震の衝撃も体ではわからず、体力が残っていた。
アオは読み終わる前に寝た。読み終わるとユメも寝た。メイも寝た。音楽と物語という二つの芸術は、人間を鎮静させる効果があることを僕は実感した。初めての実感だった。