
華奢な体。遅い直球。しかし、百戦錬磨の猛者たちは見た目以上の球威に凡打の山を築き、天を仰いだ。阪急、オリックスを支えた細身左腕は伝説の男になった。
色白でヒョロヒョロ
中沢伸二 ストレートにカーブとフォークという、わずか三つの持ち球で星野は176個もの白星を積み上げた。これは本当にすごいことだよ。
初芝清 しかも、ストレートの球速は120キロ台半ばですからね。
中沢 銀ちゃんは担当スカウトとして、ここまでの活躍を想像していた?
当銀秀崇 正直、あれほど勝つ投手になるとは思っていなかった。あいつが入団会見で初めて球団にきたとき、ほかのスカウトにえらく心配されてね。
中沢 体が細かったから。
当銀 しかも、前日まで40度近い熱を出して寝とったの。北海道・旭川出身でもともと色白なのに、やつれた顔で出てきて、「おい、銀、あの子、大丈夫なんか」って。
初芝 どんなところに魅力を感じて指名を決めたんですか。
当銀 あの独特のカーブと肘のやわらかい使い方、腕のしなりだね。ほかのアマチュアの投手にはないものだった。それと、踏み出す右足が着地するときにビタッと止まってブレない。
中沢 それならコントロールもいい。
当銀 腕なんか細いんだけど、太ももやふくらはぎは結構、太くてね。走る姿にも力強さがあった。旭川工業高3年春の道大会ではストレートとカーブだけで16個くらい三振を取った試合もあって、まだ非力だったけど、あのカーブはプロでもなかなかタイミングが取れんだろうし、なんとかいけるんじゃないかなって。
初芝 '83年のドラフトの5位入団。慧眼ですね。
当銀 確信があったわけじゃないよ。でも1年目の春季キャンプに、当時解説者だった元巨人監督の藤田元司さんがきて、二軍監督の中田昌宏さんに「あれは掘り出し物だ」と言ったそうで、その言葉は心強かったね。
中沢 僕が星野を初めて見たのは、あいつが2年目のシーズン序盤。ストレートとカーブの緩急差に驚かされた。