2016.04.24
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キャッチャーが素手で捕っちゃった!? 星野伸之「伝説のスローカーブ」を語ろう

初芝清×中沢伸二×当銀秀崇
ほしの・のぶゆき/'66年、北海道生まれ。'84年に旭川工から阪急にドラフト5位で入団。球の出所が見づらい独特 の投法と超スローカーブを武器に2年目から頭角を現し、長くエースとして活躍。'02年、阪神在籍時に頻脈が原因で引退。通算176勝140敗。現在オ リックスの二軍育成コーチ〔PHOTO〕wikipediaより

華奢な体。遅い直球。しかし、百戦錬磨の猛者たちは見た目以上の球威に凡打の山を築き、天を仰いだ。阪急、オリックスを支えた細身左腕は伝説の男になった。

色白でヒョロヒョロ

中沢伸二 ストレートにカーブとフォークという、わずか三つの持ち球で星野は176個もの白星を積み上げた。これは本当にすごいことだよ。

なかざわ・しんじ/'46年、山梨県生まれ。'65年に捕手として阪急に入団。頭脳的なリードで21年間プレーした後、'06年までバッテリーコーチとして選手育成に尽力

初芝清 しかも、ストレートの球速は120キロ台半ばですからね。

はつしば・きよし/'67年、東京都生まれ。'89年にロッテに入団し、1年目からクリーンアップを打つなど攻守の中心で活躍。現セガサミー硬式野球部監督

中沢 銀ちゃんは担当スカウトとして、ここまでの活躍を想像していた?

当銀秀崇 正直、あれほど勝つ投手になるとは思っていなかった。あいつが入団会見で初めて球団にきたとき、ほかのスカウトにえらく心配されてね。

とうぎん・ひでたか/'46年、北海道生まれ。'68年に阪急に入団し、引退後は阪急、オリックス、日本ハムのスカウトとして数多くの好選手を発掘、獲得した

中沢 体が細かったから。

当銀 しかも、前日まで40度近い熱を出して寝とったの。北海道・旭川出身でもともと色白なのに、やつれた顔で出てきて、「おい、銀、あの子、大丈夫なんか」って。

初芝 どんなところに魅力を感じて指名を決めたんですか。

当銀 あの独特のカーブと肘のやわらかい使い方、腕のしなりだね。ほかのアマチュアの投手にはないものだった。それと、踏み出す右足が着地するときにビタッと止まってブレない。

中沢 それならコントロールもいい。

当銀 腕なんか細いんだけど、太ももやふくらはぎは結構、太くてね。走る姿にも力強さがあった。旭川工業高3年春の道大会ではストレートとカーブだけで16個くらい三振を取った試合もあって、まだ非力だったけど、あのカーブはプロでもなかなかタイミングが取れんだろうし、なんとかいけるんじゃないかなって。

初芝 '83年のドラフトの5位入団。慧眼ですね。

当銀 確信があったわけじゃないよ。でも1年目の春季キャンプに、当時解説者だった元巨人監督の藤田元司さんがきて、二軍監督の中田昌宏さんに「あれは掘り出し物だ」と言ったそうで、その言葉は心強かったね。

中沢 僕が星野を初めて見たのは、あいつが2年目のシーズン序盤。ストレートとカーブの緩急差に驚かされた。

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