島地 おい、日野! これ、重いからちょっと持ってくれ。
日野 うわ、重っ! 本ですよね、これは。今回は松岡正剛さんがゲストですから、まともな読書談義で盛り上がりそうな予感がしますが、いったい何を持って来たのやら。
島地 まかせておけ。実際のところ、今日は、松岡さんとお会いするのを本当に楽しみにしていたんですよ。
松岡 わたしもです。島地さんの特異なキャラクターがどうやって構築されたのか、引き出してみたいと思っていました。
島地 松岡さんの膨大な蔵書を前にして僭越ですが、わたしがどうしてこれほど本の世界に淫したか、読書遍歴の一端をお話しさせてください。まず強烈に印象に残っているのは、小学5年生で読んだ「アルセーヌ・ルパン」シリーズです。
松岡 当時の翻訳者はというと……。
島地 子供向けのシリーズもあったんですが、わたしが読んだのは保篠龍緒が翻訳した大人向けのもので、いわゆる「保篠流」と呼ばれる名調子。もう夢中になって読み耽りました。
松岡 え! 保篠ルパンですか、それはすごい。わたしは堀口大學訳からだったので、うらやましいというか、ちょっと悔しい。
島地 やったぞ、日野。松岡さんから一本とったぞ!
日野 最初からあんまり飛ばさないほうがいいですよ。でも確かに、ルパンといえば堀口大學訳という印象が、自分のなかにもあります。
松岡 保篠さんの翻訳は格調高いというか、島地さんがいうように名調子で、「ルパンといえば保篠訳」という時代も長かったんですよね。今は残念ながら入手困難になっていますが。