ユニクロの柳井正氏やソフトバンクの孫正義氏など、著書や講演によって経営哲学を開陳する、有名な企業経営者は数多くいる。しかし、目立って行動する大金持ちは、実は一握りにすぎない。
本誌は、上場企業の高額役員報酬の一覧表を入手した。これに加えて、有価証券報告書や各種の公開情報を精査し、独自取材で得た情報を勘案。上場企業の経営者の大半が保有している「資産管理会社」の実態も加味して、'16年度版「高額納税者」番付を作成した。
取材の結果、浮かび上がったのが、知られざる実業家たち、すなわち「ニッポンのウラ大金持ち」たちの存在だ。
ランキング1位に躍り出たキーエンス名誉会長の滝崎武光氏は、その筆頭だろう。兵庫県立尼崎工業高校を卒業後、2度の倒産を経て、キーエンスを創業。自動制御機器などの開発と製造販売で、同社を売上高3000億円超の東証一部上場企業に育て上げた。
まさに立志伝中の人物だが、メディアの取材に応じることはなく、「ウラ大金持ち」の代表格といえる。
彼ら一代で財を築いた実業家たちはどんな生活を送っているのか。その「金銭哲学」はどのようなものなのか。
ランキング10位に入ったエイチ・アイ・エス会長の澤田秀雄氏が取材に答えた。
「実は自分が今、いくら資産を持っているのかを把握していないんです。趣味で海外旅行には行きますが、普段は映画代や食事代、本のおカネがかかるくらいで、そんなにおカネを使うことはない。だから、必要じゃないんですよね。
ただ、とても良い物を見つけて欲しいと思ったときに、値段が高いからといって諦めずに済むのは、いいことだなと感じます。特段高いものを食べるわけではありませんが、おいしそうで健康的なものを、値段を気にせず食べられるのもいいですね。私にとって、お金持ちのメリットはその程度のものです」
澤田氏は旅行会社、エイチ・アイ・エスを創業し、後にエイチ・エス証券で金融業にも参入。'10年には赤字経営だったハウステンボスの社長に就任し、半年で黒字化に成功して、昨期は過去最高益を叩き出した。
そんな澤田氏は、最近の若者の多くが大きな夢を持たず、正社員になれればいい、といったレベルで足掻いていることに歯がゆい思いを抱いていると言う。