2016.05.26
# 雑誌

天才・南方熊楠が見ていたもの~彼は日本版ダ・ヴィンチか

18か国語を話す、超人的な知性
中沢 新一

生涯どんな地位も求めず、大学組織にも属さなかった熊楠が、なぜ天皇には深々と頭を下げたのか。きっと熊楠は、天皇が日本の国土や自然と「相即相入」の関係にある存在だと考えていたのでしょう。草木も動物も人間も、ずっと昔からこの列島で一体になって生きてきた。天皇もその一員であり、またその全体性を象徴する存在である。そういう理念に対する自然な尊敬の念を、熊楠は抱いていたのだと思います。

今では、エコロジーを語るにも、国家を語るにも、何かと「政治」が付きまといます。しかし、熊楠は右翼とか左翼とか、そんな表面的な区別にとらわれてなどいなかった。熊楠の思想を見直して、彼が残した芽を大木に育てたい。今を生きる日本人にこそ、それが必要だと私は思っています。

なかざわ・しんいち/1950年山梨県生まれ。今回の受賞を記念し、熊楠の思想を論じる『熊楠の星の時間』(講談社選書メチエ)を刊行した

「週刊現代」2106年5月28日号より

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