長生きしたい。それも健康なままで。そう願い、さまざまな健康法に取り組んできた人は多いだろう。だが、中には効果がないどころか、かえって寿命を縮めるものもあって……。
歩いてはいけない時間帯
「70歳になった頃からですね。自宅から10分ほど歩いて最寄り駅近くの商店街まで出かけるのが、何だか億劫になってきたのは。脚が重くて、やたらと疲れてね。帰宅したら、横になって休まないではいられませんでしたね。これが本当に不思議だった。私は60代から、ずっと筋力トレーニングをしていたんですから」
東京・三鷹市在住の横山富士夫さん(74歳・仮名)は、こう語る。
「長寿の秘訣は、筋力にあり」「元気な人は筋肉を鍛えています」——。
テレビの健康番組で耳にした言葉が記憶に残り、リタイアを目前にした60代から、筋トレを始めた横山さん。高い料金を払ってスポーツジムに行くこともないと、自宅で腹筋運動を続けていた。
初めこそ苦しかったが、次第にできる回数が増え、中年以来、ぽっこり出ていた腹も引き締まり、調子は上々と思っていたという。だが70を過ぎて、急激に体力の衰えを感じるようになる。
メディアで健康情報が溢れる時代。テレビなどが勧める方法を実践しているのに、どうも調子がよくない、かえって具合が悪くなったという人が、急増している。
いったい何が間違っているのか。横山さんの証言について、『やってはいけない筋トレ』などの著書があるスポーツ・トレーナーの坂詰真二氏は、こう指摘する。
「筋トレが健康の秘訣というのは本当ですが、どういう筋トレをするかが問題です。テレビのCMで盛んに腹筋マシンの宣伝が流れるせいか『筋トレと言えば、まず腹筋』と考える人が多いのですが、これは大間違い。
腹筋運動ばかりを続けても、60代以上の方に重要な足腰の筋肉はほとんど鍛えられません。長寿のために始めるなら、まずスクワット。週に2〜3回でよいので試してみてください。90歳を過ぎて現役だった女優の森光子さんもスクワット運動だけは欠かさなかったといいます」
間違いだらけの健康常識。足腰を鍛える運動としてブームとなっているウォーキングやジョギングについても、勘違いしている人が多いという。

長寿を司る細胞内の物質テロメア研究の第一人者で、日本各地で100歳を超えても健康な人々を調査してきた白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二医師は、こう話す。
「私自身、朝に1時間のウォーキングをするよう心掛けていますが、ウォーキングやジョギングをしている人を見かけることが本当に増えました。
ただ、私は中高年の方にはジョギングよりウォーキングを勧めています。身体に強い負荷をかける激しい運動は健康長寿のためにはよくないと考えています」