2016.06.09
# エンタメ

ハリウッドで「スーパーヒーロー映画」が量産される理由〜そして、ヒーローたちは「正義」について悩み始めた

寺田 悠馬 プロフィール

二人のヒーローの論争は、例えば、2003年の米軍によるイラク攻撃の問題を想起させる。自他共に認める「圧倒的なパワー」を持つ米軍が、イラク侵略の是非を国連安全保障理事会の判断に委ねるのか、もしくは、自らの独断でそのパワーを行使するのか。当時の世論を二つに分けた論争は、アベンジャーズを二分した問題にそっくりである。

違いがあるとすれば、イラク攻撃の是非は現実世界の問題であったため、何らかの決断を下して、行動に移す必要があったということである。

実社会はつねに、我々に不完全な選択を迫り、他のたくさんの選択肢を放棄して、前進することを強要する。そうしたなか、物語に余白を残す『シビル・ウォー〜』は、我々に、一度立ち止まって、物事の複雑性を噛みしめるという贅沢な機会を与えてくれるのだ(奇しくも、佳境を迎えるアメリカ大統領選で、「圧倒的なパワー」を躊躇せずに行使する「強いアメリカ」への回帰が一つの論点となる今年こそ、2003年のイラク攻撃の是非は、再考に値する)。

製作者が、予定調和のカタルシスを提供するのではなく、また、奇を衒ったエンディングを用意するでもなく、観客の感受性を信じて、物語を託すことで、そこには多種多様な映画体験が生まれる。

映画の「単一化」を招くと揶揄されてきたスーパーヒーロー映画だが、最新作『シビル・ウォー〜』は、そんな新しい可能性を示してくれた。映画への参加権を得た我々観客は、もはやヒーローたちの戦いに、白けた態度で向き合うことはできないのだ。

『シビル・ウォー〜』と『〜ジャスティスの誕生』の一騎打ちは、興行成績、そして評価の面においても、マーベルの勝利に終わったようだ。

アメリカでは、この結果を受けたDCコミックスが、次回作『スーサイド・スクワッド』の大幅な撮り直しに踏み切ったと報じられている。これを転機に、スーパーヒーロー映画は生まれ変わるのかもしれない。

すっかり「シニカルな観客」と化していた筆者の心を、『シビル・ウォー〜』のヒーローたちは、見事に救いだしてくれた。思えば、我々が悲観的になった時に現れて、再び信じる力を与えてくれる存在こそが、スーパーヒーローというものなのだ。

ヒーローたちの再来が、待ち遠しくて仕方がない。

(参考文献)
Review:‘Avengers: Age of Ultron' Gets the Superband Back Together
Marvel Studios Phase 3 Update 

寺田悠馬 (てらだ・ゆうま)
1982年東京生まれ。株式会社コルク取締役副社長。投資銀行、ヘッジファンドにて国内外勤務を経て現職。コロンビア大学卒。著書に『東京ユートピア 日本人の孤独な楽園』(2012年)がある。Twitter: @yumaterada

著者:寺田悠馬
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