その象徴が、新井が通算2000本安打の記録が迫った4月下旬に生まれた「新井応援Tシャツ」の裏話だ。スポーツ紙の広島担当記者が明かす。
「選手会長の小窪(哲也)が球団幹部に、『チームの雰囲気を盛り上げるためにも、新井さんを応援するオリジナルTシャツを作りたい』と申し出て、快諾されました。あと3本に迫った4月23日、黒田が登板した日のことです。
マツダスタジアムの試合前練習で、新井以外のすべての選手、球団関係者、球場関係者までが、新井の顔がプリントされた赤いオリジナルTシャツを着ました。背中には、新井が一塁手としてエラーしている絵が描かれ、『まさかあのアライさんが…。』と文字が入っていました。
何も知らされていない新井が、全員そのTシャツを着ていたことに気付くと、新井は目を丸くし、全員爆笑でした。
ちなみに、気の利いた文言を考えたのは黒田です。一見からかっているようですが、不器用な新井が愚直に練習を続け、偉業を達成したことに対する、黒田の愛情と敬意がにじんでいます」
赤いTシャツ練習から3日後の4月26日、新井はヤクルト戦(神宮)で2000本安打を達成。日本プロ野球史上、47人目の偉業だった。
「つなぎ」に徹する新井
ただ、投打のベテラン選手による雰囲気づくりだけで勝てるほど、プロは甘くない。広島が昨季積み重ねた69勝のうち、15勝を稼いだ前田の穴はやはり大きいはずだ。このピンチをどう埋めているのか。広島OBの北別府学氏が解説する。
「マエケンの穴を埋めることが期待された大瀬良(大地)がひじ痛で出遅れ、6年目の福井(優也)も不調で現在は二軍にいる。投手力は去年よりも苦しいながらも打ち勝っています。去年まではチャンスはたくさん作っても走者を還すところまでヒットが続かなかった。みんなが『俺が何とかしなきゃ』という気負いにつながっていた。
でも今年は打線がつながってタイムリーも出るので、各打者が精神的に追い込まれることも少ない。結果が出ていると、打順も固定でき、各自、自分の役割を認識できる。開幕時に4番に座ったルナは今、けがで二軍ですが、代わりに入った新井でさえ、5番のエルドレッドにいい状態で打順を回す『つなぎ』に徹している。
その姿勢が他の打者にもいい影響を与えています。新井が休養目的で欠場しても、9年目の松山(竜平)、安倍(友裕)などが活躍している。日替わりヒーローが出て、優勝する雰囲気が出てきています」
26日現在、265得点、打率・276、53本塁打はすべてリーグトップ。今季から就任した石井琢朗打撃コーチは、こう明かしている。
「広島の選手はいつも練習から本当によくバットを振る。でも、それが『振り回す』ことになってはいけない。状況に応じた打撃ができるよう、選手の打球方向を広げたいんです」