昨秋の宮崎・日南キャンプからテーマに掲げたのは「ノーアウト二塁から、ノーヒットで1点をとる打撃と走塁」だった。とくに走者をすすめるために必要な、逆方向への打撃を徹底。たとえば、右打者が右へ打球を飛ばすにはボールを長く見ることが不可欠。石井コーチは、数字や文字が書かれたボールをトスし、読み取るユニークな訓練も選手にやらせた。
打撃の質に加え、走塁の姿勢にもこだわりを見せる。現役時代、盗塁王に輝いた緒方監督のポリシーだ。スポーツ紙デスクが明かす。
「ある主力選手が三塁走者になり、犠飛として還ってこられる外野フライがあがった。三塁コーチャーは『ゴー』の指令を出したのに、その選手は、『アウトになるかもしれない』と判断して走らなかった。その選手は消極的な走塁を理由に、すぐに二軍に落ちました。緒方さんにはそういう厳しさがある。26日時点でリーグトップの盗塁数40も、投手陣を助ける攻撃力につながっています」
攻撃陣に助けられている投手陣の大黒柱・黒田は2月16日、自主トレ先のアメリカから日南キャンプに合流したとき、円陣の中でこう言った。
「チームに貢献し、優勝できるようにしましょう」
その模様を現場で見た広島OBの大野豊氏は、黒田の覚悟を感じ取った。
「昨年は新井が戻り、メジャーからも必要とされていた黒田も戻り、周囲は『優勝』と期待した。でも優勝どころか結局、4位に終わった。優勝はスンナリできるものではない。だから、黒田は『優勝』とは簡単には口にしたくないはずなのに、あえて言葉に出したんです。彼はこう言いました。
『今年はマエケンがいなくなった。それでも優勝できる、という強い気持ちを、若い選手にも持ってもらいたい』
自分も、そして仲間たちも鼓舞するためだったんです」
復帰2年目の黒田は若手選手との距離も縮まり、慕ってくる選手も増えてきた。5年目の右腕・野村祐輔は黒田のアドバイスによって、マウンド上のプレートに立つ位置を、今までの三塁側に近いほうから、一塁側に近いほうに変えた。
右打者の内角をえぐるシュートボールにより角度をつけるためだった。昨季5勝に終わった右腕は25日の巨人戦で5勝目をあげた。「黒田効果」はこんな形でも出ている。