被害総額2000億円!豊田商事「会長刺殺事件」の凄惨な結末

バブル前夜に起きた巨額詐欺事件
〔PHOTO〕gettyimages

「本当に殺したのか」—白昼の惨劇だった。血まみれの永野会長が運び出される姿が、テレビに映し出される。これは現実なのかと、誰もが言葉を失った。

とみむら・かずみつ / '40年広島県生まれ。大阪地検特捜部副部長として'86年から豊田商事詐欺事件の主任検事を務める。'99年京都検事正を最後に退官し弁護士に

よしおか・しのぶ / '48年長野県生まれ。ノンフィクション作家。著書に永野らの生涯を追った『死よりも遠くへ』や日航機墜落事故を描いた『墜落の夏』などがある

にしむら・ひでき / '51年愛知県生まれ。'75年に毎日放送入社。永野会長刺殺事件当日は、現場で記者として取材に当たる。現在は近畿大学人権問題研究所に所属
 

報道陣の目の前で

吉岡 '85年6月18日に起こった豊田商事事件は、被害総額2000億円という日本最大級の詐欺事件ですが、それ以上に印象的だったのは、会長の永野一男(当時32歳)が取材陣の前で刺殺され、その様子がテレビで放送されたことでした。

西村 事件当日は、40人くらいの報道陣が永野会長の自宅マンション(大阪市北区)の前で張り込んでいました。そこへ、自称右翼の二人組の男が突然、現れたんです。

毎日放送の記者だった私が「何しに来たんですか」と質問すると、「被害者から永野をぶっ殺してくれと頼まれたんや」と主張。そして、カメラマンが持っていたパイプ椅子で、永野の部屋のドアをドンドンと叩きだした。

冨村 当時、私は広島地検の刑事部長(のちに豊田商事事件の主任検事として捜査、指揮)でしたが、ブラウン管を通じて「これは本当に現実なのか」と衝撃を受けました。

西村 同時にもう一人の男が防犯用の窓格子を引っ張ったら、それがボコッと取れ、窓ガラスを蹴破り、室内に押し入った。「これはやばい」と思って、私は慌てて、3軒隣の部屋に行き110番通報を依頼しました。現場に戻ったのは、血まみれの犯人が部屋から出てきた時でした。手には軍刀が握られていた。

吉岡 生中継があったのは夕方で、NHKではアナウンサーが「子供には見せないでください」と慌てて呼びかけていた。

さらに写真週刊誌『FOCUS』が、断末魔の形相をした永野の死体写真を掲載し、世間に相当なショックを与えました。

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