加速する香港の若者の「中国離れ」
~天安門事件「犠牲者追悼」に異論が出始めた!

倉田 徹 プロフィール

当時の香港では「今日の北京は明日の香港」とのスローガンが掲げられ、大陸との運命共同体意識が存在した。絶望や恐怖から香港を離れ欧米に移住する者も急増したが、残った者たちは引き続き中国の民主化を支援した。

彼らが結成した団体が「香港市民支援愛国民主運動連合会(略称「支連会」)」である。中国の地図にピースサインを重ねた同会のロゴが示すように、彼らが関心を持ったのは中国の民主化であり、団体名称に盛り込まれた「愛国」の二文字は、共産党政権を批判するのは中国を愛するからであり、中国を思うからこそ民主化を求めるのだという主張を反映している。

この支連会が、返還をまたいで27年にわたり、毎年6月4日のキャンドル集会を絶やさずに主催してきたのである。

許されなかった「香港式愛国」

「愛国心ゆえに共産党を批判する」という立場は、香港市民にかなり幅広く共有されたものである。

しかし、「愛国者」を自称する支連会の幹部の多くは、北京から敵視され、中国大陸への入境を認められなかった。党・政権と国家が一体化した中国において、「国は愛するが共産党は愛さない」という発想はありえない。

中央政府が「愛国」を言う場合、その意味するところは中国への愛情ではなく、共産党への忠誠であった。中央政府は「香港式愛国」を許さなかったのである。

北京から見て、香港は明らかに愛国心を欠いていた。返還後、中央政府は、香港の主権をイギリスから取り戻した一方、「人心の回帰」が進んでいないとたびたび問題視した。

2007年、返還10周年記念式典のため香港を訪れた当時の胡錦涛国家主席は、香港政府に愛国教育の強化を求めた。これを受けて香港政府は、2012年秋から必修科目として「国民教育科」を導入する準備を進めた。

この過程で、政府が資金援助している団体が「国民教育科」の副読本を作成し、香港の小中学校に配布した。その内容には、中国政府の指導層を「進歩的・無私で団結している」と形容する一方、アメリカの多党制は「悪質な闘争」であり、人民が災いを被っているとの記述が見られるなど、共産党型の愛国心の強制を疑わせる内容があり、香港の世論は騒然となった。

特に強い反応を示したのは実際に教育を受ける若者であった。彼らは「反洗脳」をスローガンに、政府庁舎前で長期にわたる座り込みとハンストや集会を繰り返し、最大で10万人を超える動員に成功した。結局政府は「国民教育科」の導入を断念したが、事件は特に若い世代が愛国心の強制に対して抱く強い反発心を浮き彫りにした。

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