加速する香港の若者の「中国離れ」
~天安門事件「犠牲者追悼」に異論が出始めた!

倉田 徹 プロフィール

ヘイト化と展望なき独立論

今年の天安門事件追悼集会では、ついに犠牲者を「追悼」することにすら異論が出始めた。

支連会の何俊仁主席が「追悼の気持ちがあればビクトリア公園の集会へ来るべき」と述べたことに対し、香港大学学生会の孫暁嵐会長は、追悼は香港の学生にとって意味がなく、今後1~2年でピリオドを打つべきとまで言い切った。後に孫暁嵐は追悼集会の参加者を揶揄する意図はないとしたが、「(中国人)同胞の身分に基づいて追悼することはすでに限界」とも述べた。

ある大学の学生幹部は、平和的運動を軍事弾圧した共産党政権に遠慮し、政権を怒らせないように配慮することを「暴行された女性が暴行魔に愛情を抱く」ような態度と述べ、支連会は少女を誘拐して暴徒に差し出す売春宿の経営者とまで罵った。

「自分たちは中国人ではなく、香港人」と主張する彼らの発する言葉は、時に中国大陸の人々へのヘイト・スピーチ的な色彩も帯びる。

一部の本土派は、今年も支連会の天安門事件追悼集会を離れ、独自の集会を開催した。中文大学での集会には、大講堂を埋め尽くす1600人が集まった。「時間がもったいない」として、犠牲者への黙祷などの儀式を省いた集会では、支連会の過去の集会の映像を早回しにした映像を放映し、毎年同じことの繰り返しを揶揄した。

その後の討論会では、「香港独立」を掲げる「香港民族党」など、若者が新しく立ち上げた政治団体の関係者が多数登壇した。「中央政府が対話に臨むまで、拳を挙げ、レンガを投げ続ける」というような勇ましい発言に、場内から拍手が起こる。

しかし、彼らが主張する「香港独立」を達成する具体的なプランは聞こえない。「チベット・新疆・台湾などと連合すれば、北京と交渉するまでもなく、北京は香港の独立を認めざるを得なくなる」というような登壇者の論理は、筆者も理解できなかった。

香港には中国人民解放軍が駐留している。本当に独立を目指せば、それが軍事衝突を意味するのは誰もが分かることであるが、本土派は「北京は解放軍を出動させる勇気はない」の一言で片付けた。流血の天安門事件を目撃した世代が共産党を恐れているのに対し、延々続けられても解放軍が動かなかった雨傘運動を経験した世代は、北京をなめているのである。

天安門事件から27年――頑なな北京の態度は、香港の「人心の回帰」どころか、香港の若者の「中国離れ」を加速させてしまったが、他方で実現できそうもない「独立」を叫び続ける若者の議論からも、香港の明るい未来も展望できない。香港を覆う重苦しい霧はいつ晴れるのであろうか。

倉田 徹(くらた・とおる)
立教大学法学部政治学科准教授。専門は、現代中国・香港政治。1975年生まれ。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。2003~06年に在香港日本国総領事館専門調査員。金沢大学人間社会学域国際学類准教授を経て、現職。著書に『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、共著に『香港 中国と向き合う自由都市』(岩波新書)など。

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