常識的に考えれば、外国からの侵略から国民を保護するのは、政府の最も基本的な任務である。したがって、「憲法9条により、憲法13条の国民保護義務は解除される」と解釈するのは、つまり、テロ対策はするが外国軍の攻撃は甘受すべきと解釈するのは、かなり「不自然」な帰結を招く。
そこで、政府は、外国からの武力攻撃の場面では、憲法13条により憲法9条の例外が認められると解釈してきた。自衛隊は、憲法9条2項に言う「軍」や「戦力」ではないという議論も、自衛隊が憲法13条で認められた範囲を超える武力行使を任務としない組織だという意味である。
このように、日本への武力攻撃を排除するための武力行使、つまり個別的自衛権の行使については、それを合憲だと説明できる。しかし、昨年問題となった集団的自衛権の行使は、憲法13条では説明できない。
集団的自衛権は、外国からの要請に基づき、その外国の防衛を援助する権利である。憲法13条は、国民の生命・自由・幸福追求の権利の保護を義務付ける規定であり、外国の防衛を義務付けていないから、集団的自衛権の根拠とすることはできない。
国民の多数が支持する従来の政府解釈
では、こうした解釈は、国民にとって理解しにくいものだっただろうか。データを見る限り、個別的自衛権の行使に限り、武力行使を合憲と評価する従来の政府解釈は、広く国民に受け容れられていたように思われる。
まず、国民が自衛隊を必要だと考えているのかどうかを確認しよう。
内閣府の世論調査(平成27年1月に実施された「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」)によれば 、現状の自衛隊について、「よい印象を持っている」と回答した者は92.2%。自衛隊の防衛力について、「増強した方がよい」と回答した人が29.9%、「今の程度でよい」と回答した人が59.2%で、現在の自衛隊の防衛力について肯定的に捉える人は、合わせて89.1%に上っている。要するに、大半の国民は、自衛隊が必要だと答えている。
もしも、自衛隊必要派が多数であり、かつ、自衛隊を違憲と考える人が多いなら、憲法9条改正派は多数派になるはずである。しかし、今年の憲法記念日前後に行われた世論調査によれば、憲法9条の改正に反対する者の方が多い。
例えば、毎日新聞が2016年4月16・17日に行った調査では9条改正について、反対52%に対し賛成27%となっている。他の報道機関の調査でも、概ね同様の傾向が出ている。
他方、集団的自衛権の行使を合憲とする解釈は、世論に支持されなかった。昨年6月20日~21日に実施された共同通信の世論調査では、56.7%が安全保障関連法案は「憲法に違反していると思う」と回答している。