解散権の制限を議論すべき
ここまで各党のマニフェストや自民党改憲草案を検討してきたが、そこに現れなかったもので真剣に考えるべき改憲提案が、衆院解散権の制限である。
現在の運用では、内閣はいつでも衆議院を解散でき、いわゆる7条解散を広く認める運用となっている。しかし、内閣に自由な解散権を委ねるのは、世界標準に照らして一般的ではない。政権与党に有利なタイミングを選んで行う党利党略解散など、解散権の濫用が横行するからだ。
このため、日本と同じ議員内閣制を採るドイツやイギリスでは、解散権に制限をかけている。例えば、ドイツ連邦共和国基本法では、連邦首相が連邦議会を解散できるのは、首相が提案する信任決議を議会が否決したときだけ、と規定されている。
また、イギリスでは、与党に有利なタイミングでの解散が横行したことの反省から、2011年に議会任期固定法が成立し、議会の広い合意があるか、首相の不信任決議が成立したときを除いて、下院を解散できないとされた。
この点、日本でも、解散権の濫用が指摘されることが増えてきている。小泉郵政解散は、「参議院」で法案が否決されたから、「衆議院」を解散するという筋の通りにくいものだった。
2012年末の野田内閣による解散も、民主党は選挙で大敗したものの、いわゆる第三極の選挙準備が不十分なうちの解散という面があったと指摘されている。あるいは、2014年末の安倍内閣の解散も、その理由がはっきりしないものだった。
こうした解散権の濫用について、現行憲法の解釈で、それに歯止めをかけようとする主張もある。例えば、石川健治・東京大学教授は、2014年末の解散については、端的に解散権の濫用として「違憲」と評価すべきとしている(「環境権『加憲』の罠」樋口陽一・山口二郎編『安倍流改憲にNOを!』岩波書店所収)。
憲法学の世界では昔から、解散権の濫用を防ぐべく、解釈上の提案をしてきた。憲法の教科書を見る限り、7条解散を無制限に認めるものはほとんどない。69条解散に限定するか、国民に直接信を問う必要があるほどの緊張状態が生じた場合に限定する説が一般的だ。
しかし、そうした提案が権力者に受け入れられず、不適切な運用が続くのであれば、ドイツやイギリスのように、解散権の濫用を制限する憲法規定の導入しようと提案されることもある。もちろん、実際改憲となれば大事だから、提案の是非は慎重に吟味されるべきだ。
しかし、ここ数年の解散権の行使状況を見ていると、憲法改正を含め、議論をする時期が来ているように思う。