
一代で世界的ゲームメーカーを育て上げた経営者は、一流の金銭哲学を持っていた。75歳をすぎて、ますます血気盛んな大富豪と、実力派経済小説家がワインの聖地、米ナパ・ヴァレーで語り合った。
たとえ人から笑われても
楡周平 辻本さんは世界的ゲームメーカー・カプコンの会長として成功を収め、その財産を注ぎ込んで「世界最高のワイン」を米国で造られた。僕は辻本さんのようなおカネの使い方をする方と会ったことがありません。
辻本憲三 おカネはあの世へもっていけませんからね(笑)。
楡 ワインなんて、ただ儲けようと思ってできるものではありませんし、こんなリスクの大きなビジネスもないと思うんです。それを見事に成功させ、「ケンゾー エステイト」を世界に通用するブランドに育て上げた。
辻本 私はこの業界に何十年もいたわけじゃないので、ワインを始めるにあたって、ブドウの天才栽培家といわれるデイビッド・アブリュー氏に聞いたんですよ。そうしたら、一流のワインをたくさん飲めと言われました。それで1本1万円以上のワインをあれこれ1万本買い込みましてね。
楡 それをせっせと飲み比べられたんですね。そうしたら、値段が高いからといって、おいしいとは限らなかった、と。
辻本 そうなんです。高い安いに関係なく、おいしいものが、先に減っていくんです。その飲み比べを繰り返しているうちに、一番レベルの高いやつはこれだというのが、大体わかりました。
でも、うちのワインができてからは、集めたワインはもう飲まなくなりましてね。うちのワインのほうがおいしいから。それで結局、5000本くらい残ってしまって。よかったら、いつでも飲みに来てください(笑)。
楡 ありがとうございます(笑)。しかし、よく私財を投じてナパ・ヴァレーでワイン造りをやろうと思われましたね。
辻本 結局、おカネというのは生活する分以上にあったとすると、あとは見栄で使うしかなくなるんですよ。それでは意味がないので、もっと社会に貢献できるように使ったらいいかなと思うんです。
個人的に投資して殖やす人も多いですけど、私はそうではなく、何かを提供して多くの人に喜んでいただけたらと。事業をすることで、雇用にもつながりますし。