アメリカ社会がハマった「分断」の袋小路〜噴出する「反知性主義」

"オバマの夢"が迎えた皮肉な結末
〔photo〕gettyimages


文/森本あんり(国際基督教大学・学務副学長)

オバマはムスリム!?

アメリカでは、教会の説教師は政治家のように語り、政治家は説教師のように語る、と言われる。しかし、近代の大統領でオバマ氏ほど自分の信仰について多くを語った大統領はいない。それは、彼ほど自分の信仰について執拗に尋ねられ、疑問を投げかけられた大統領もいないからである。

バラク・フセイン・オバマは、ケニア出身でムスリム系の父をもち、ハワイに生まれ、インドネシアのムスリム社会で育った。母方はカンザス州の伝統的なキリスト教系家庭の出身だが、オバマ氏がキリスト教徒になったのは成人して後、1985年にシカゴの地域組織化活動に携わってからのことである。

彼は、黒人教会が歴史的に果たしてきた役割の大きさを知り、シカゴのプロテスタント教会で洗礼を受けた経緯を、選挙の前にも後にも繰り返し語ってきた。

にもかかわらず、彼がイスラム教徒だと思っているアメリカ人は今でも少なくない。

昨年の調査では、29%がそう思っており、その数は共和党員に尋ねると43%、ドナルド・トランプ氏の支持者では54%にものぼる。教育程度の差も色濃く反映されており、オバマがプロテスタントだと知っているのは、大卒者では63%だが、そうでない人では28%にまで下がる。

ネット上には、オバマ氏本人や周囲の人が何を言おうとも、彼が「隠れムスリム」だと固く信じて疑わない人びとがいて、数々の「証拠」を論じ立てている。日本ではほとんど報道されなかったが、オバマ氏の結婚指輪が大問題になったこともある。

曰く、そこには「アッラーの他に神はいない」というアラビア文字の信仰告白が刻まれている、というのである。彼がイスラム教徒に好意的なのもそのためだ、という陰謀論である。

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