「初乗り410円」タクシー値下げの本当の狙いを知っていますか?

数少ない値下げ
東京のタクシー料金引き下げがほぼ確実となった。現在、東京23区と一部の地域で「2キロ730円」だった初乗り料金を「1キロ強で400円台」に改定するというもので、値下げが実施されるのは、戦後、現在のタクシー業界が成立して以降、初めてとなる。
値上げされるものが多い中、我々にとっては数少ない値下げだけに、実にありがたい話だが、ことはそれほど単純でなさそうなのだ。
今回の値下げの理由について、一般的には国際的に比較して高いといわれる初乗り料金を引き下げることで、需要を喚起するというのが目的と言われている。だが、狙いはそこだけではない。
今回の値下げを主導した日本交通は、シェアリング・エコノミーと自動運転技術の発達で、近い将来、タクシーが無人化・無料化することを見据えている、と筆者は推測している。料金引き下げは、こうした時代にタクシーが生き残るための布石でもある。
しかも、破壊的テクノロジーを積極的に取り込みつつ、タクシー業界の既得権益も維持するという、二兎を追う狙いがある。こうした同社の戦略は吉と出るのか。今回は、このことを考えてみたいと思う。
ちょい乗りは嬉しいのだけれど
ことの起こりは、国土交通省が7月5日、東京地域において初乗り運賃の値下げを申請したタクシー会社が265社(全体の84.3%)に達した発表したことにはじまる。
よく知られているように、タクシー運賃は規制の対象となっている。国土交通省が運賃の上限と下限を設定しているが、事業者から運賃変更の申請があり、その地域の総車両数の7割を超える事業者から同様の申請があった場合には運賃変更の手続きが行われる。
今回、8割以上の事業者が値下げを申請しているので、同省は変更手続きを実施。年内には新しい運賃が認可される見通しとなっている。
今回の値下げでは、東京23区と一部の地域で「2キロ730円」だった初乗り料金を「1キロ強で400円台」に改定する。一定以上の距離を乗った場合にはあまり変わらないが、短距離の料金が大幅に安くなるため、いわゆる「ちょい乗り」の需要を喚起できる可能性がある。
高額のタクシー・チケットはすでに多くの企業で認められなくなっていることに加え、労働者の実質賃金は5年連続のマイナスとなっており、個人の懐は寂しい。短距離を安く乗るという新しい需要を掘り起こさない限り、タクシー業界が売上げを維持することは難しくなっている。東京の場合には、外国人観光客の増加で短距離移動需要が拡大しているという追い風もあるだろう。
ここまで業界の足並みが揃ったのは、東京という特殊事情に加え、タクシー最大手の日本交通が積極的に値下げの環境作りを進めたことが大きく影響している。