
女性を虜にする究極の技術「恋愛工学」をテーマにした藤沢数希氏の小説『ぼくは愛を証明しようと思う。』。昨年6月に出版されるや瞬く間にベストセラーとなり、累計5万部を超えた本作のコミック版が発売された。「恋愛工学」とはなにか。原作者の藤沢数希氏の特別寄稿――。
なぜここまで人々を熱狂させるのか
恋愛工学とは、簡単にいえば、主に男性のための恋愛マニュアルである。しかし、それが単によくできた恋愛マニュアルであったならば、ここまで人々を熱狂させることはなかっただろう。恋愛工学の成功は、我々が率いる恋愛工学研究所に潤沢な研究資金をもたらし、そして、数えきれないほどの恋愛工学ユーザーの人生を大きく変えた。
正直に言って、この恋愛工学のプロジェクトを率いてきた我々自身が、ここまで恋愛工学が広まったことに、一番驚いているのかもしれない。
はじめて恋愛工学という言葉が生まれたのは、私がブログ『金融日記』を書きはじめた2005年にまでさかのぼる。当時は、金融工学がブームで、私は外資系投資銀行で金融工学を使ったアナリストの仕事をしていた。
また、私自身は、男子高校から理系の大学に進んだため、学校生活ではほとんど異性に出会う機会がなかった。それゆえに、恋人はもっぱらナンパで見つけてきた。海外に留学しているときも、本業の科学研究以外のほぼすべての時間を、まだ見ぬ素敵な女性と出会うために費やしてきた。
こうして、私の学業や仕事以外のエネルギーを注ぎ込んできた恋愛への情熱が、2005年に金融工学と奇妙な形で出会うことになり、恋愛工学というコンセプトが生まれたのだ。これまでの恋愛論が金融工学の確率論的なフレームワークに取り込まれた瞬間である。そして、10年以上の月日を経て、それは学問という名にふさわしい深さと広がりを持つに至った。
しかし、ここまでの道のりは必ずしも一筋縄ではなかった。