
ゴールなき日本の「聖なる火」
その聖火が、もうじきリオデジャネイロのマラカナン・スタジアムに到着する。今回の聖火リレーでも、デモにさえぎられてルートを変更する騒ぎがあった。
この事件からも、聖火が相変わらずオリンピックの象徴とみられていることがわかる。同時に聖火リレーは、それを実施する側だけでなく、社会に不満を抱える人々にとっても政治的な姿勢を表明する場になりうるのだ。
リオデジャネイロでの17日間の大会が終われば、日本では2020年の東京オリンピックに向けて一気に盛り上げムードに入るだろう。
坂井義則がトーチを手に聖火台への階段を駆け上がった国立競技場は、すでにない。だが聖火台は保存されており、現在は宮城県石巻市に貸し出されている。石巻は2020年のオリンピックで、聖火リレーのスタート地点に名乗りをあげている。
石巻に貸与されている旧国立競技場の聖火台は、すでに震災からの「復興のシンボル」として語られている。2020年の聖火リレーの出発点となることで、「復興」した姿をさらにアピールしたいということらしい。
だとすれば、1964年大会で坂井義則が果たした役割と同じだ。聖火の持つ力を感じさせる話である。
ただし2020年の東京オリンピックは、公式エンブレムの選定などをめぐってトラブルが次々と起きている。新国立競技場の設計案は最初の案が白紙撤回された後のコンペでようやく決まったが、聖火台の設営場所を指定していないことが明らかになった。
仮に2020年のリレーが石巻から出発しても、最終ランナーがどこまで走るのか現時点では決まっていない。ゴールの見えない「聖なる火」が、2020年に向けて、私たちに何をもたらすかもわからない。
森田浩之(もりた・ひろゆき)
ジャーナリスト。立教大学兼任講師。NHK記者、『Newsweek日本版』副編集長を経てフリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にコリン・ジョイス『新「ニッポン社会」入門』、サイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか』など。
ジャーナリスト。立教大学兼任講師。NHK記者、『Newsweek日本版』副編集長を経てフリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にコリン・ジョイス『新「ニッポン社会」入門』、サイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか』など。