あまりに小さすぎたドーナツ市場
なぜ「コンビニ・ドーナツ」は失敗したのか。それは、潜在市場規模を見誤ったからである。
ドーナツが売れないのはコンビニだけの話ではない。既存のドーナツ・チェーンも業績不振に苦しんでいる。ドーナツ最大手ミスタードーナツを展開するダスキンの2016年3月期決算は売上高が1652億円、経常利益が67億円と減収減益だった。
ミスドを中心とした外食部門が足を引っ張っており、外食部門単体で見ると15億円の営業赤字になっている。このほか、日本に鳴り物入りで進出し、当初は店舗に長蛇の列が出来ていたクリスピー・クリーム・ドーナツも相次いで店舗を閉鎖している。
言うまでもなく、これまで日本のドーナツ市場はミスドがほぼ独占状態だった。つまりミスドの売上高はそのまま日本のドーナツ市場とみてよい。だが同社の売上高は年々減少が続いており7年で3割も縮小しているのだ。
これは何を示しているのか。
当初、コンビニ側はコーヒー市場と同様、既存のドーナツ・チェーンとの奪い合いにはならず、新しい需要を開拓できると踏んでいた。しかしミスドの全店売上高は914億円しかなく、コーヒーに比べると市場規模の絶対値が小さい。
小規模な縮小市場にコンビニという巨大な鯨が参戦するということになると、さすがにコーヒーの時のようにはいかず、一気にパイの奪い合いになってしまった可能性が高い。これはコンビニにとっても完全な誤算だろう。
ちなみにコンビニの成功モデルの一つとなったフライド・チキンも、ドーナツと同様、既存市場の規模は大きくない。最大手のケンタッキーフライドチキンが高いシェアを占めており、市場規模はおおよそ1200億円。コンビニのフライドチキンは600億円以上の売上高があると推定されるが、ケンタッキーの売上高が減ったわけではなく、市場全体が拡大した。つまり、既存市場の規模が同じでも、ドーナツとフライドチキンでは潜在市場の規模が大きく違っていたことになる。
潜在市場規模を見誤れば、手痛い目に遭うということを、コンビニ・ドーナツは改めて教えてくれたのだ。一社だけが手を付けたのならほどほどに成功していたかもしれないが、そこに各社が乗り込むことで、「被害」はさらに大きくなる、ということも改めて分かった。
だが、今回のドーナツでの失敗からコンビニが学んだかと言えば、実はそうでもないようなのだ。それどころか、各社が同じ商品に参入し、市場を一気に飽和させてしまうという現象は、今後、さらに顕著になってくるかもしれない。全体の売上高に占める大手3社の割合が上昇しており、寡占化が進んでいるからだ。