2016.09.29

突然、公売中止に!魔物が棲むという「新宿のビル跡地」の呪い

「いわくつきの土地」で新たな動きが…
週刊現代 プロフィール

「何もお話しできません」

そこで選ばれたのが、公売という方法だった。不動産関係者が続ける。

「あの土地は税金の滞納で都に差し押さえられていましたから、所有者が都に相談すれば公売できます。しかも、国が基準となる値を決めるから、買い手に対して『反社組織への利益供与だ』という批判が出にくい。そうした事情から、公売が選ばれたのだと思う」

そして武蔵野ハウジングが落札。武蔵野グループは、年間の売り上げが1200億円を超える優良企業で、落札後の保証金2億円超もキチンと払っている。にもかかわらず、公売が取り消しとなったのである。

同社の担当者は、

「9月2日、都税務事務所から『公売が取り消しになった』と連絡があり、購入できませんでした」

と言うが、そこには複雑な事情がありそうだ。

なぜなら、武蔵野ハウジング側の関係者が、差し押さえの原因である滞納された税金を支払い、そのことによって公売が取り消しになってしまったと見られているからである。

一体どういうことなのか。この土地の背景に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。

「滞納された税金を払ったのは、同社の顧問弁護士だとされています。武蔵野ハウジングはこの土地について詳細を知らずに購入した。しかし、後からいわくつきの物件だと判明し、あえて税金の支払いを肩代わりして公売を流したのではないかと言われています」

武蔵野ハウジングの担当者は言葉を濁す。

「入札したことは確かですが、それ以上は何もお話しできません」

同社の顧問弁護士に聞くと、

「税金の滞納分を払った人物は存じております。ですが、申し上げることはできません」

と回答があった。

やはりこの土地はそう簡単には売れない—皮肉にも、そんな事実を改めて明らかにすることになった今回の騒動。

その深層を知るためには、この土地が持つ、宿痾の歴史に触れなければならない。

バブルが生んだ魔窟

近隣住民や周囲の不動産業者らの証言、登記簿などから遡ると、現在の真珠宮ビル跡地は、戦後すぐの時期、周辺の土地とも合わせて、Oという一族の持ち物だった。当初はもっと広い土地で、駐車場として使われていたが、周囲の開発が進み、'78年に真珠宮ビルが建設されると、そこに大手電子メーカーのオフィスや有名喫茶店チェーンなどが入った。全盛期には賃料だけで、月数百万円もの収入があったという。

真珠宮ビル跡地は、住所の上では渋谷区代々木になるが、'80年代以降の代々木の公示価格は、1m2あたり百数十万円だったのが、'90年代初頭には1500万円前後、'90年代末には300万円ほどと乱高下する。

こうしたバブルの狂乱を挟んで、真珠宮ビルが放つ「魔力」は凄まじかっただろう。

「地価が下がってきた当時は、付近の土地と合わせて大規模開発をする可能性も取りざたされました。うまく転売すれば数億円の利益は固い土地でした」(前出・不動産業者)

O一族もそうした「魔力」に憑かれたのかもしれない。O一族がたどった数奇な流転は、宮崎学著『上場企業が警察に抹殺された日』に詳しい。同書によると、以降の経緯の要旨は以下の通り。

〈'93年、それまでの当主が死亡すると、家族のなかで土地をめぐっていざこざが起きた。この内紛を利用して儲けようと、様々な人々がO一族に接触を図る。'02年には稲川会系の幹部が、ビルの乗っ取りを図り、管理会社・真珠宮の商業登記簿を改竄。幹部は逮捕された〉

そして事態の混乱に拍車をかける男がO一族に近づく。司法書士の野崎和興氏である。バブル期に「事件師」として名を馳せた野崎氏は、人をはさんでO一族に近づき、管理会社の役員になる。『上場企業が警察に抹殺された日』から引こう。

〈オーナー一族の人間を老人ホームに入れた挙句、痴呆を進ませて野垂れ死にさせ、またその息子は刑務所や精神病院送りにした後、フィリピンで軟禁生活を送らせる〉

こうした手法で野崎氏は真珠宮ビルを実質的に支配するに至ったと、同書は解説する。

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