2016.10.15
# 経済数学

リーマン・ショックがなぜ起こったか、経済理論で説明できますか?

経済学はむずかしくない

経済学にそびえたつ難題

現在の世界で「今の時代を代表する経済学は?」と問われても、そこにはアナリストの金融分析や経済行動の豆知識などが混在しているだけの印象があって、何かその背骨のようなものが見えにくい。

少し前の時代だと、中央にケインズ経済学が一本の幹のように存在しており、一般の人でもそうしたアカデミックな世界のトップ理論について知ることで、頭の中に座標軸が定まって経済全体が一つのビジョンに収まるという感覚を得られていた。

そこで現在の大学内での状況を眺めると、今の経済学でそうしたトップ理論の地位にあるのは、マクロ経済学の「動学的マクロ均衡理論」である。ところが一昔前にはケインズ経済学の一般向け解説書が新書版でたくさん出ていたのとは違って、これに関してはそういうものがさっぱり見当たらない。

その理由は一つには、この最新理論が高度な数学を使っていて、その数学部分がわからないと解説自体が不可能だからである。そして数学的に難しいという点では、現在の経済学ではもう一つ、リーマン・ショックなどの折に有名になった金融工学の「ブラック・ショールズ理論」があり、これらが言わば「二大難解理論」としてそびえている。

こうしてみると、現在の経済学はもはや従来の文系的な解説書では扱い切れなくなっているのだが、この数学の高度化は経済学部の教室内部でも大問題である。

実際これらは大学院の成績上位の学生でも理解困難なほどのもので、おまけに経済学部で扱う数学は量的にもどんどん増えて、それへの対応は日に日に困難になりつつある。

そのためかつての理系の世界における筆者の前著『物理数学の直観的方法』のような本が、もし経済学部にも存在していれば、その状況が大幅に救われるのではないかということで、その要望に答えて書かれたのが本書『経済数学の直観的方法』(講談社ブルーバックス)である。

直感的理解であたる新アプローチ

本書の場合何と言っても最大の特徴は、理系と文系の中央位置から双方を視野に入れていることで、それによって初めてこれらの理論の直観的な解説が可能となっている。

また本書では、経済学全体を把握する方法論自体も、常識とは異なる全く新しいものが採用されており、それは攻略目標を直接この「二大難解理論」に絞って、読者を一挙にその2トップの頂上部分の直観的理解に導くというものである。

そうすれば、今まで難物だった他のこまごました数学技法は、ちょうど一番高い二つの山からそれより低い山を見下ろす要領で、精神的に吞んでかかって楽に理解できるというわけである。そのため本書では全体を「マクロ経済学編」「確率統計編」の二冊に分けて、それぞれでこれらを一方ずつ引き受けている。

そしてこれらの直観的な理解を可能にしたことで、結果的に、経済学だけの視野では見えなかった、一般読者にも興味深いことがいくつか見えてくることになった。

まず「マクロ経済学編」の場合、今までは一般読者がこのトップ理論を理解するのは不可能とされてきたが、実は物理の世界で古くから知られていた、光に関する「フェルマーの原理」という神秘的な原理を思考の原点に据えると、それが十分可能になるのであり、恐らく本書はそれについての初の解説ではないかと思われる。

また「確率統計編」の場合、このブラック・ショールズ理論は名前だけは結構知られていたが、それはあくまで「金融の世界でのみ必要な、一般の人には無縁のやや危ない理論」という認識だったと思われる。

しかし物理と文系の中央位置から眺めると、実はこれが遥かに本質的なメカニズムで、経済世界そのものの将来が、この理論の用語で言えば「ボラティリティ型資本主義」とでも呼ぶべきものに移行しつつあるのではないか、ということが浮かび上がってくるのであり、これは、資本主義の将来に思いを致す全ての人が、教養として知っておくべき知識だと思えるのである。

なお本書の場合、専門課程の学生のための本格的な数学的部分を後半部分に集中させることで、前半部分は一般読者でも読めるよう工夫されている。

そのため経済学部の学生が本書を数学の難所突破の特効薬として使うのはもちろん、一般読者の方々も本書を、数少ないこれらの一般向け解説書として使うことができ、それを通じてこれらの話を教養として知っていただければと思う。

読書人の雑誌「本」2016年10月号より

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