相変わらずの“ドゥテルテ流”
フィリピンのドゥテルテ大統領が6月30日の大統領就任から100日、いわゆる「お手並み拝見」のハネムーン期間を終えた。
就任直後からの失言、暴言、言いたい放題、やりたい放題の独自路線は100日を過ぎても依然として国民から高い支持を受けており、それをテコにさらに「我が道」一直線に突っ走っている。
ドゥテルテ大統領の舌鋒が向かう先はオバマ米大統領、潘基文国連事務総長(当時)、在フィリピン米軍からユダヤ人まで相変わらず広範囲に及び、名指しされた本人やその周辺、さらに国際世論の反応を見てはドゥテルテ自身、大統領府、外務相などが訂正、謝罪、説明してフォローするという手法もほぼ定着した感がある。
海外のマスコミもようやくこうした“ドゥテルテ流”に慣れてきたようで、かつてほどは過剰反応しなくなってきている。
とはいえ、数ある失言の中でもドゥテルテ大統領自身が直接謝罪せざるを得なかったのが、ナチスドイツのヒトラーに自分をなぞらえて「麻薬犯を虐殺する」という発言だった。
9月30日の記者会見で麻薬犯罪対策での強硬策が欧米などから「超法規的殺人」と指摘されていることに反発して、こう言ってのけた。
「ヒトラーはユダヤ人を300万人虐殺した。フィリピンには麻薬中毒者が300万人いる。私も虐殺してやりたい」
「私は彼らを喜んで虐殺する。ドイツにはヒトラーがいた。フィリピンにもいる」
これにはさすがにアベラ報道官が「ホロコーストでユダヤ人600万人の命が失われたことを軽視する意図は大統領にはない」と弁明、補足説明をして擁護した。
しかし「ヒトラー」「ホロコースト」は欧米人の琴線に触れる問題だけに欧米各国、ユダヤ人組織が猛反発。さすがのドゥテルテ大統領も反省して、10月2日、「虐殺されたユダヤ人を貶める意図は全くなかった。ユダヤ人社会に心から謝罪する」と、一転して非を認めた。
こうした「発言→釈明・謝罪」というお決まりのパターンをみていると、「最初から言わなければいいのに」とも思うわけだが、やはりそこがドゥテルテ大統領の強い個性でありフィリピン人の国民性なのかもしれない。
100日間で約4000人を殺害
大統領就任直後からドゥテルテ大統領が最優先課題として取り組んでいる麻薬犯罪対策は、目覚ましい「成果」を挙げている。
しかしながらその成果が、国際社会や人権団体、キリスト教団体などから「超法規的殺人」として厳しい批判を招き、国連の調査団を受け入れる結果を招いたのも事実だ。
問題の「成果」をおさらいしてみよう。
大統領に就任した6月30日から10月7日までの100日間に殺害された麻薬犯罪容疑者は3944人。そのうち1523人は取り締まりに当たる警察官によって現場で射殺された。それはつまり、残る約2400人は警察官以外の自警団や一般人などによって殺害された、ということになる。
逮捕者は全国で2万6861人に達し、自首した麻薬関係者はなんと73万6247人。その内訳は麻薬密売人5万3212人、麻薬常習者68万3035人となっている。
この数字が示すように、現在、多数の逮捕者と自首した容疑者によってフィリピン国内の刑務所は過剰な定員オーバー状態となっており、その過密ぶりはテレビのニュースでも伝えられている。

自首してきた麻薬常習者や密売人は「シャバにいれば殺されかねない」という理由から塀の中を志願した。彼らにとってみれば、どんなに劣悪な環境であっても「殺されないだけマシ」であり、刑務所はさながら「駆け込み寺」となっているのが実情だ。
こうしたフィリピン政府の麻薬犯罪への強硬姿勢は麻薬犯罪者の減少という確実な成果を生み出しているのと同時に、「麻薬の密売価格の高騰」という招かれざる効果も生み出していることがわかった。
大統領府麻薬取締局(PDEA)の調査によると、ドゥテルテ大統領就任前の今年1から6月までの覚せい剤の末端密売価格は1グラムあたり1200~1万1000ペソ(約2700円~2万4600円)だったのに対して、10月8日にはそれが1200~2万5000ペソ(約5万6000円)にまで値上がりしているという。
しかし、PDEA関係者は、「価格高騰はブツが市場に不足している証拠である」として政府が進める麻薬対策が奏功していると強調する。