●自動温水プールにパルテノン神殿風の柱、シャンデリアだけで1000万円
●庭にテニスコート、室内にはジャグジー、仲間とホームパーティの日々
しかし……
●掃除が大変すぎる、屋内プールのカビ対策に苦労
●電気代月25万円、維持管理と税金で年間1000万円以上かかる
●高級外車に錦鯉、リッチな暮らしをし尽くした男は「贅沢に飽きた」
●はやく小ぶりなマンションに引っ越したい!
数億円から十数億円という超高額物件。そんな豪邸を売りに出した人たちを訪ねて、どんな人生を送ってきたのか、なぜ売るのかを聞いて回った。大金持ちが明かした豪邸生活の「知られざる真実」。
「住んで3日で嫌になった」
六本木、赤坂、表参道、白金……。高級ブティックや一流レストランが立ち並び、億ションから目が飛び出るような額の邸宅がひしめく。別名、日本で最も多くの金持ちが住む街――。
そんな港区内でも屈指の超高級住宅エリアに大豪邸を建てた増井由美子氏(仮名、50代)は、「もともとは、お城のような家を建てることが棺桶に入るまでに絶対に叶えたい夢だった」と言う。
「私はお金持ちの家に生まれたわけではなく、田舎の普通のサラリーマン家庭に育ちました。だから、小さい頃からずっと、いつかは映画に出てくるような豪邸に住みたいと憧れてきました。
おかげさまで20代のときに始めた医療機器の会社が軌道に乗ってくると、そんな夢を叶えるための金銭的な余裕ができた。そこで10年前に一念発起して、これまでの夢をすべて詰め込んだ大豪邸を建てようと決めたんです。
まず、絶対にやりたかったのがプールです。それも私の場合、屋外プールだと冬には入れないのが嫌だったので、屋内に自動温水プールを作りました。プール部屋だけで、100m2くらいの広さがありますよ。
あと、屋内のインテリアはヨーロッパの城のようにしたいと憧れていましたから、リビングの床は大理石貼りにして、柱はパルテノン神殿のものを模した特注品をあつらえました。リビングには巨大なシャンデリアを吊るしたかったので、フランス製の1000万円くらいのものをかけました」
そんな増井氏の豪邸は建物面積にして、優に500m2を超える。豪奢な石張りの巨大外壁は、企業経営者、芸能人などが多く住むこの一帯でも群を抜いて目を引く。
内装も凝りに凝っていて、リビングダイニングは10mを超える高さで吹き抜けている。階段も特注の石材で作られたらせん階段で、空間をラグジュアリーに演出する。
建築家と1年くらい相談しながら、設計図を仔細に詰めていくのは至福の時だった。
「だけど、実際に住んでみたら3日目にはもう嫌になりました」と増井氏は言う。
「作る前からわからなかったのかと言われればその通りなのですが、まずなにより掃除が大変なわけですよ。建物面積で500m2以上はありますから、もちろん自分一人では無理。浴室は2つ、トイレだけでも5つもあるので、ほぼ毎日業者が来て掃除をしてもらっているような状況でした。もともとお金持ちの家に生まれて、そういうことが当然と思えればよかったのでしょうが、私にはそれが次第にストレスになっていったんです。
温水プールについては、実は24時間フィルターを通して循環するので掃除は不要。水の交換は年に1回で数万円と低コストでした。ただ、プールに入らない時に湿気を防ぐためにフタを被せるのですが、とにかくカビが凄いんです。それに冬場にプールを温めるために地下暖房を使うのですが、そのガス代がバカにならない。それでも最初はもったいないと思って使っていましたが、結局は2年くらい経ったらプールの水を抜いたまま使わなくなりました」
結婚をして子供ができた直後に離婚。女手一つで事業を興し、子供の運動会に行かないで取引先とゴルフをしたほど、必死に働いてきた。
そんな努力の結晶としてやっとのことで手に入れた豪邸を「手放す」と決めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだったという。
「もちろんガス代、掃除代などにストレスがどんどん溜まっていったのも大きかったですが、私が家を売ると決意したのはあの大震災があったからです。あの時は東京都内もかなり揺れましたが、うちは内装をこだわるために建物は主にコンクリートを使っていたため、ビルや木造のようにグラグラとしなるような揺れ方と違い、直接ズドーンと来たんです。
私はリビングにいたのですが、頭上で巨大なシャンデリアがいつまでもグルグルと回っていた。シャンデリアが落ちてくるのではないかと恐怖に震えていた時にふと、『私にはそもそも、こんな豪邸は必要なかったんじゃないのか』と悟ったんです。
豪邸というのは住んでみないとわからないことが多くて、生まれが貧乏だった私みたいな人間には、はなから向いていなかった。近所にはお金持ちが多く住んでいますが、生まれつきのお金持ちほど地味に目立たないようにして、豪邸=ステータスという風に見せびらかしたりしません。そもそも、『キャベツが300円以上したら買うのをよそう』なんて考えている私に、なにがパルテノン神殿かって。身の程を知らなかったんです」
「ゲーテッドシティ」の現実
そんな増井氏は豪邸を売ってできた数億円を元手にして、近所に断震性能の優れた「こぢんまりとした家」を建て、いまはそこに暮らしている。
「私も年をとったせいかもしれませんが、何百m2もある豪邸より4畳半ですべてに手が届くほうが快適で暮らしやすい。おカネが貯まってまた家を建てるなら、もっと小さい家にしようかと思っているくらいです」
周囲からは一見優雅なように見える豪邸の暮らしも、実はそうとは限らない。豪邸に住んだために初めて背負うことになる苦悩に耐えきれず、せっかくの城を手放す人は少なくない。
田辺雄一氏(仮名、60代)もそんな一人である。
田辺氏の豪邸は、東京近郊の「選ばれし街」に建つ。もともと富裕層向けに開発されたエリアで、街区に入るには管理門を通過する必要があるゲーテッドシティだ。
そんな日本には珍しい超富裕層向け住宅街だけあって、プール付きの豪邸があちこちに立ち並ぶ。田辺氏の豪邸はその中でもひときわ大きく、建物面積は700m2ほど。敷地の周りには緑が高く整備されていて、森の中の別荘のようだ。
「私は経営コンサルタントとして仕事三昧の人生を送ってきましたが、この土地は一目見ただけで気に入りました。なんといっても、ここに住むのは経営者や弁護士、医者など本物の一流ばかり。各界の一線で活躍する彼らは本気でビジネスに取り組むし、プライベートも本気で遊ぶ人たちです。こうした人たちに囲まれて過ごすのは最高だと思って、迷わずにここに家を建てました。
実際、私はこれまで多くのビジネスの仲間たちを呼んでパーティを開きましたが、みんな喜んでくれます。庭にはテニスコートがあるので一汗かけるし、家族連れでバーベキューだってできます。子どもたちは遊んでいて暑くなったら素っ裸になって、庭のプールで泳ぐ。そうしてみんなが楽しむ姿を見るのがなにより嬉しいし、仕事の励みにもなりました」
リビングだけでも50畳近い広さがあるから、何十人が集まるパーティも開ける。ジャグジーバスにサウナも完備されているから、テニスで疲れた身体も休められる。まさに家全体がラグジュアリーホテルのようだ。
ではなぜ、田辺氏はそんな優雅な生活を手放すことにしたのだろうか。
「私は20代からずっとコンサルタント業界の第一線で働いてきた自負がありますが、そろそろ仕事に一区切りをつけたくなったんです。毎年3000万〜4000万円を納税するほどに稼いできましたが、隠居をすれば収入は大きく減るので、この生活は維持できないと思って決めました。
もちろん、これまで稼いだ蓄えがたくさんあるではないかとは言われますが、実はここまでの家を建ててしまうと、ランニングコストがバカにならないんです。たとえば電気代だけでも、1ヵ月で約25万円はかかる。そこに光熱費、プールやテニスコートの維持費から庭の手入れ費などを入れれば、少なくとも月々70万円からの額がのしかかってきます」