諸永事務所への損害賠償請求事件では、山口は被告側の証人として出廷することになりそうだという。つまり詐欺の被害者であるAに対し、吉永と山口がタッグを組むという話だ。もっともAたちは山口とは連絡がとれないという。どうやって打ち合わせしているのか。
「連絡は直接ではなく、ある弁護士を通して取れます。この件は私だって事実関係の詳細を知らないので、山口から聞かなければなりませんからね」
富ヶ谷の土地の所有名義は、呉からオンライフという不動産会社を経由してAへ移る手はずになっていた。このように不動産取引の中間に別の会社が入ることはよくあることだが、オンライフの社長も姿を消した。
手元にある諸永総合事務所口座の残高・出入金明細によれば、9月10日、Aから振り込まれた土地代金6億5000万円は、同日中にオンライフへ3億9500万円、山口へ7000万円といった具合に数ヵ所に振り分けられているが、諸永事務所の口座にも3600万円余りの残金がある。
この諸永事務所からの振り込み先の中で特筆すべきが「フクダヒサト」への1億円だ。Aが補足説明してくれた。
「これが昨年暮れ、都内の駐車場の売買を装った2億5000万円の地面師詐欺で警視庁に逮捕された福田尚人と同姓同名なのです。逮捕された地面師は10人で、福田はそのうちの一人。要するに私の金が別の大掛かりな地面師組織へ流れていたことになる」
地面師グループの福田について、知っていたのか、吉永に尋ねた。
「売り主のオンライフの指示で振り込んだだけですから、福田なんてまったく知りません。売り主の指示に従わなきゃいけないじゃないですか。それだけのことです。たしかに非常に奇怪な話です。でもどこからどこまでが一体なのか、その先はわからない」

地面師の懐に1億円
地面師詐欺の取材を進めるうちに、ひょんなことから、山口本人と接触することができた。待ち合わせの喫茶店に現れた山口は、まるで他人事のようにこう答える。
「呉さんは俺も人に紹介されて、会ったんだ。私が呉のボディガードや運転手をしているとの話は、吉永の作り話。実際は、土地を売りたいということで2年ほど前に知り合ったんです。聖路加病院の近くで、病院のプレートの入った車椅子に乗っていた。
そうそう、吉祥寺の呉さんの家で息子らしき人物とも会った。だから、呉さんが偽者だとは思いませんでしたよ。よく中国の話をしていました。
取引の場ではみんな薄々怪しい話だと感じていたんじゃないかな。でも司法書士がいて、『本人に間違いない』と言われてしまえば、反論のしようもないからね。取引の前に、中止にするならすると、はっきりしようとなったけど、みんなおカネが欲しいから、『これで行ってしまおう』となっちゃったわけ。
実際に地面師グループとつながっているのは福田でしょう。福田は最近、また警察に引っ張られました。それから呉さんに成りすました偽者。こちらも警察に早く逮捕してほしいですよ」
東京を跳梁跋扈する地面師集団。どうして、さすがにつかみどころがない。(敬称略了)
「週刊現代」2016年11月12日号より