1日でも健康寿命を延ばすために知っておきたい「医療費節約の考え方」

不要なクスリ、無用な手術

年間475億円のクスリが無駄に

1日でも健康寿命を延ばすために知っておきたい医療費の基礎知識を1冊にまとめた『不要なクスリ 無用な手術』(講談社現代新書)が刊行されました。著者の富家孝氏(医療ジャーナリスト)が医療費節約の考え方を教えます。

歳を取っても健康で少しでも長生きし、できるなら医者の世話になることなく穏やかにこの世から去っていきたい。そう誰もが願っていると思います。しかし、そんなことができる人は、10人のうちの1人がいいところではないでしょうか。

大多数の人は、歳を取るとともになんらかの病気を発症して、医者の世話になります。そうして、おそらく死ぬまで高額な「医療費」を払い続けています。

しかし、その多くは実は無駄なのです 。あなたが払う医療費は、検診代だったり、クスリ代だったり、あるいは手術代だったりしますが、検診もクスリも手術もじつは不必要なことが多いのです。

医者の私から見ると、たとえば高血圧で降圧剤を常用している人のほとんどが無駄な医療費を払っています。なぜなら、歳を取って血圧が高くなるのは当たり前で、よほど危険な数値でないかぎり、降圧剤など飲む必要はないからです。同じようなことが、糖尿病にも言えます。

日本薬剤師会が発表している「残薬調査」(2007年)では、在宅の75歳以上の後期高
齢者は、年間で475億円分ものクスリを無駄にしているとみられることが明らかになっています。その後、調査は行われていませんが、残薬が年々増えているのは間違いないでしょう。

また、がんになればほぼ9割の人が手術を選択して、がんの切除手術を受け、高額な医療費を払っています。しかし、はたしてそれで本当にがんが治ったと言えるでしょうか? 術後に抗がん剤治療を受けるケースが多いのですが、そのために、どれだけ死期を早めているでしょうか? 

がんの場合、どんながんかにもよりますが、後期高齢者(75歳以上)の場合は、私は手術も抗がん剤治療も勧めません。

最期の1ヵ月で112万円かかる?

さらに、終末期医療にいたっては、その医療費のほとんどは無駄です。本文中で詳しく述べますが、財務省の資料で「終末期医療費」(死亡者の死の直前1ヵ月にかかった医療費)を見ると、なんと1人あたりの平均額(実費)は約112万円になっています。身も蓋もない言い方になるかもしれませんが、いまの日本人は最期の1ヵ月で112万円をかけて死んでいくのです。こうなると、医療費というのは8割どころか、終末期にいたってはほぼすべてが無駄と言っていいでしょう。

アメリカでは2011年から、「Choosing Wisely」(チュージング・ワイズリー:賢く選ぶ)という運動が起こり、無駄な医療費の撲滅運動が始まっています。この運動には米国医学会も積極的に参加し、「無意味な医療」をネット上でリストアップしています。

 

たとえば、「風邪に抗生物質は使わない」「PETがん検診は控えよ」「大腸がんの内視鏡検査は10年に1回でいい」「胃瘻は認知症では意味なし」「〝いきなり手術〞はしてはいけない」などです。

この無意味な医療リストは膨大ですが、このリストから現在日本で行われている医療を見ると、ざっと見ただけで半分が該当します。また、医療費という面から見ると、約8割は無駄ではないかと思えます。

私たちは、無意味な医療に莫大な医療費をつぎ込んでいるのです。すでに多くの方がご存知だと思いますが、政府は40兆円を超えた医療費を抑えるために、2012年から、老人医療のシステムを大きく変えています。これまで病院側のドル箱と言われた「介護療養病床」を大幅に減らしたうえに、廃止する方針に転換しました。

簡単に言うと、「入院を減らし在宅を重視する」ということです。さらに言うと、「これからは病院では看取りません。自宅か看取りができる施設で見取ってください」ということになったのです。

つまりこれからは、死に至るような病気で入院しても治療後はすぐに病院を追い出されます。そして、看取ってくれる施設に入所できないとなると、自宅で死を迎えなければなりません。

ここ数十年間は、日本人の多くが病院で死んでいました。現在でも、約8割の人が病院のベッドの上で亡くなられています(厚生労働省の調査)。日本人の「死に場所」というのは、近年はほぼ病院でした。ところが、これからはそうはいきません。

とすれば、今後、私たちの老後にかかる費用は、かなりの額になるのは確実です。看取りをしてくれるターミナルケア完備の有料老人ホームは高額のところが多いし、また在宅ケアは費用の面でも家族の面でも負担があまりにも大きいからです。

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