予防医学研究者・医学博士として、ダイエットや健康についてメディアにも引っ張りだこの石川善樹氏が、「豊かさの再定義」というテーマであらゆるジャンルの第一線で活躍している人と語り合う本対談。今回のお相手はコピーライター、クリエイティブディレクターの溝口俊哉氏です。
溝口氏は外資系広告会社「マッキャンエリクソン」で長年コピーライター、クリエイティブディレクターを務め、コカ・コーラやネスレ、スカパー!やAGAなど様々な企業の広告活動をブランドの視点から確立してきました。
現在はフリーとして活躍している溝口氏と石川氏が、広告をとおして見つめてきた時代の流れ、そしてこれから求められる「豊かさの再定義」について語り合います(文・田中裕子/写真・神谷美寛)。

「ダイエット」を魅力的な言葉にしたコカ・コーラ
石川 溝口さんはコピーライターで、外資系の広告会社で長いあいだ働かれていました。バブル崩壊前から広告、そのなかでも言葉をとおして日本を見つめてきた溝口さんと「豊かさの再定義」をしていければと思います。
現在はフリーランスでご活躍ですが、前職ではコカ・コーラなどの広告を担当されていたんですよね?
溝口 はい。僕は「コカ・コーラ ライト」が日本で発売される前年、1982年入社なんです。
石川 「コカ・コーラ ライト」、懐かしい! いまの「ダイエットコーク」ですね。
溝口 そうそう、「ダイエット」という言葉はまだ医学用語っぽくて、あまり魅力的な言葉じゃなかったんですよ。だから日本での発売当初、商品名には「ダイエット」とつけなかった。
ただ、アメリカでは「ダイエットコーク」という名前で販売していたので、僕たちが担当していた1988年のCMで「その考え方はおいしいよ!」というコピーを使い、「ダイエット」という言葉をローンチしたんです。「ダイエット」という言葉をコマーシャルで使ったのは、そのときが最初じゃないかな。
石川 へえー!
溝口 さらに遡ると、(もちろん僕は社会に出ていませんが)高度成長期、コカコーラなどの炭酸飲料は「自立した若者」の象徴として人気だったんですよ。「甘い炭酸を飲んで刺激を受ける」なんて、いかにも西洋の文化だったし。
それが、世の中が豊かになるに従ってだんだん健康志向が高まって、次第に「ダイエット」も意識されるようになったんです。伊藤園がお茶を出し始めたくらいで、まだ水にはお金を払わないくらいの時代ですね。
石川 水にお金を払わないくらい(笑)。
溝口 当時は本当に「近いうち、水にお金を払うようになるかもね?」と言っていました。「パリコレに出るようなフランス人モデルはevianを飲むらしい」という情報が入ってきて、「えっ水買うの? 炭酸飲料が売れなくなっちゃうじゃん」って心配したり(笑)。
石川 それにしても、「ダイエット」をポジティブなワードにしたのは溝口さんの所属していたチームだったなんて、すごい話ですよね。