活断層とは何か? 直下型地震はどうして起きるのか?
日本列島には確認されているだけで2000以上の活断層が存在し、互いに複雑に影響しあっています。ひとたび地震が起きれば、それは次の地震へと連鎖していきます。つまり、今もどこかで地震の「火種」はくすぶりつづけているのです。
次の地震はいつ、どこで起きるのか? NHKスペシャル『MEGA CRISIS 巨大危機』にも登場した気鋭の活断層研究者が、活断層と直下型地震のメカニズムと最新の研究成果を豊富な図と写真でわかりやすく解説します。『活断層地震はどこまで予測できるか』より特別公開!

プロローグ 熊本地震
「それは明日かもしれませんし、10年後かもしれませんし、100年後かもしれません」
2016年4月15日、東北大学災害科学国際研究所での熊本地震に関する報告会で、私はそう発言しました。4月14日に熊本県益城町で震度7を記録したマグニチュード(M)6.5の地震が起こった翌日のことでした。「それ」とは、この地震に刺激されて布田川断層もしくは日奈久断層が動き、さらに大きな地震が発生することです。
この報告会の際に、私はある図を示しました(図)。これは、M6.5の地震によって布田川断層と日奈久断層に歪みが大きく伝播し、両断層が動きやすくなったことを示すものです。
この報告会には地元仙台のメディアが多数取材に訪れました。NHK仙台放送局のカメラの前でこの図を示しながら、影響を受けた布田川断層か日奈久断層が動き、さらに大きな地震を起こす可能性が高いことを正直に伝えました(この模様が放映されたかどうかは確認していません)。
東京のNHK本局からの電話取材にも同じ説明をしました。ただ、あまりにも刺激が強いと感じたので、当日配布した資料にはこの図は載せませんでした。
報告会の開かれた15日の夜、翌日からの現地調査の準備をし、深夜12時前に床につきました。本来は、14日の地震を受けて、15日に現地に直行する予定でした。ただ、15日には皮肉にも1年半前に起こった長野県北部の地震の報告書の提出締切日でした。そのため、出発を16日早朝にずらしていました。
深い眠りについた深夜1時半、16日になったばかりのことです。NHK本局からの携帯電話の着信音で目を覚ましました。「起きてしまいました、心配していたもっと大きな地震が……。
M7.1です(後にM7.3に上方修正される)」と記者の一言。残念ながら、「それ」は100年後ではなく、28時間後に起こってしまいました。益城町が再び震度7の激震に見舞われ、結果的に50名もの犠牲者を出す地震が起きたのです。
何人かの方が最初のM6.5の後、電気が復旧したことでいったん自宅に戻り、次のM7.3の地震で倒壊した建物の下敷きとなり亡くなられました。
「今後も震度6弱程度の揺れをともなう余震に注意してください」と、気象庁は定番のようにアナウンスします。一般の方々、また多くの地震学者でさえ、余震は本震よりも規模が小さいとの「刷り込み」があります。
しかし、後ほど解説するように、余震活動は地震の誘発現象そのものです。「本震」の近くに大きな地震を起こす断層が存在すれば、その「本震」と同規模かそれを上回る地震が起きます。これは、最近20年ほどの余震や地震連鎖の研究から明らかになっていた真実なのです。
このことを14日の時点で自信を持って伝えなかったと反省するとともに、「近くに大きな地震を起こす断層」、すなわち活断層とその危険性が周知されていなかったことが本当に悔やまれます。