飲み続けると認知症になる
「デパスは気軽に使われていた薬の代名詞です。60代、70代になってからデパスを飲み始めた結果、依存症に陥る人がたくさんいます。一般内科や整形外科などでも処方されるのですが、依存性が高いためやめられない人が多い」
こう語るのは高齢者医療に詳しい長尾クリニックの院長、長尾和宏氏だ。
'16年10月14日、エチゾラム(デパス他)、ゾピクロン(アモバン他)という2種類の精神安定剤・睡眠導入剤が、第三種向精神薬に指定された。
この指定を受けると、投与期間の上限が30日になり、取り扱いがより厳しく規制されるようになる。厚労省がこの薬の危険性を認めたのだ。
埼玉医科大学医学部教授の上條吉人氏が語る。
「デパスを始めとするエチゾラムはベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬です。神経細胞の活動を抑制する働きがあるGABAという脳内物質の作用を増強させるので、GABA作動薬とも分類します。
エチゾラムもゾピクロンも高齢者に安易に処方されている。筋弛緩作用があるので高齢者が服用すると、ふらついて転倒して骨折するという事故が増えています。
また、せん妄の問題もあります。意識が混濁して、自分のおかれている状況がわからなくなったり実際には無いものが見えて、不安や恐怖で興奮状態になる。
さらに、これらの薬を長期間にわたって服用していると認知症の発症率が上がるということもわかってきました」
このように、デパスはとりわけ高齢者にとって恐ろしい薬であるにもかかわらず、これまで日本では野放しで処方されてきた。松田医院和漢堂院長の松田史彦氏が語る。
「30年以上も前から、救急外来に『デパスが欲しい』と言ってくる患者がいました。デパス中毒です。欧米では'70年代からベンゾジアゼピン系の薬の中毒性が問題になって、規制がかかっていましたが、日本ではそのような動きはなかった。
その結果、日本はベンゾジアゼピン系の薬の消費量で世界トップクラスの国になっているのです」
国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦部長は、日本でどのような薬が濫用されているのかを調査しているが、その結果によると濫用されている処方薬の第1位がデパスを含むエチゾラムだった。
「精神科の薬には過量服薬(オーバードーズ)ということがよくあるのですが、以前われわれが調べた結果では、オーバードーズの患者が飲んでいる薬で最も多かったのが、やはりエチゾラムでした。
また、交通事故を起こした人から検出される薬物でいちばん多いのがエチゾラムだったとする報告もあります」(前出の上條氏)
