2017.02.11

旅行を楽しむ『新幹線のたび』のススメ〜日本海、津軽海峡、北海道へ

編集者Mと行く、新幹線取材日記

舞台は春休みの金沢から

絵本『新幹線のたび ~はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断~』が発刊されてから4年が経っていた。

この間に新幹線を巡るトピックは、新幹線開業50周年、300系ラストラン、新型車両の導入と事欠かず、北陸新幹線が東京~金沢間で開通し、さらには北海道新幹線が新函館北斗まで開通を控えていた。

2015年5月。第2弾となる『新幹線のたび~金沢から新函館北斗、札幌へ~』の制作に取りかかった。

1作目は春休みの日本列島が舞台だったので、今回は夏休みに設定。すぐさま編集担当のMさんから「7月に取材旅行に行きましょう」と声がかかった。

それで「おやっ」と思ったのは、1作目は雪深い青森と菜の花咲く鹿児島の季節感を確認する目的があったものの、今回は夏。金沢も札幌もただただ夏である。

「行くの?」と何度聞いても「行く」という回答なので、行くことにした。

金沢に行きたかったせいもあった。

前に金沢を訪れたのは、はや30年も昔のこと。金沢に進学した親友を訪ねたのだが、兼六園を観光したことしか記憶にない。ガイドブックを見るたび、茶屋街や金沢21世紀美術館に行きたいという思いが募っていた。

1作目の取材旅行は、1泊2日青森~鹿児島旅行というおよそ常識を外れた行程であったが、今回もMさんとのスケジュールがかみ合わず、1泊2日金沢~札幌旅行となった。発地・着地は亀山(三重県)である。

10時49分、金沢に到着すると、タクシーを拾い卯辰山公園の山頂を目指した。金沢の町並みを俯瞰できる写真を撮影したかったからだ。できれば、瓦屋根の町並みを見下ろす古都の風情を感じられる風景を収めたかったが、卯辰山からは遠すぎた。

そこで、ひがし茶屋街の町並みと金沢駅の鼓門を候補に撮影をやり直して、12時34分、北陸新幹線「かがやき」ではなく「はくたか」に乗車。金沢滞在時間105分、ひがし茶屋街には20分、金沢21世紀美術館には行けなかった。

富山、黒部、上越へと北上するにつれ、日本海がせまってくる。途中、立山の山容や散居村を思わせる集落を見やりながら、ひたすら車窓から風景を撮影する。私は自由席の左側に、編集担当者は右側に席を取り、もくもくとシャッターボタンを押しては、メモ用の地図に写真番号を落とし込んでいく。

この旅、食事も駅弁ばかり。車窓を見つめながら、手早く食べてしまう。念のため、包装紙も持ち帰る。コーヒーカップも撮影した。

旅が今まさに始まった

上越妙高駅を通過し、長野駅に向けて折り返すと、パノラマが一変する。信越の雄大な山並み、なかでも佐久平から眺める浅間山に目を奪われながら、関東平野へ。15時2分、大宮駅で「はやぶさ」に乗りかえ、青森へと北上する。

当初、青森で宿泊予定であったが、旅程2日目の早朝に地元道民やマスコミを対象にした新函館北斗駅の内覧会が催されることが判明。急遽、旅程を変更し、函館行きを強行した。

青森~函館間、日が落ちてからの、この2時間の行程がしんどかった。函館着20時56分。赤レンガ倉庫を改築したレストランで乾杯。食事を終え、タクシーを拾ってホテルに向かうつもりだった。で、ここで災難に見舞われる。

「お客さん、函館山からの夜景はもう見たよね」と運転手。

「いえ。今、着いたばかりなんで……」

「そりゃもったいないよ。函館の夜景見ないなんて、後で絶対後悔するから。15分もあったら山頂にいけるから……」

「いやいや、今日はへとへとで……」と、少々押し問答があって、結局、折れた。

「お客さんたち、お似合いのカップルだし、夜景バックに写真撮ったらいい思い出だよ」と、運転手の会話は途切れない。

「いや、カップルじゃなくて、仕事なんだけど……」と返すも、いっこうに聞く耳はなし。そうそう、今さらながら、Mさんは若くてきれいな女性で、どうみても私とは不釣り合いなのだけれども、「絵本作家と編集者で、その取材で……」と話して、食いつかれて根掘り葉掘り聞かれても困るので、カップルということで流すことにした。