ほどなく、タクシーが函館山の山頂に着くと、「撮影ポイントはこっちだ」と引きずり回され、カメラも奪われて、二人で何度もポーズをとらされた。
「はい、はい。笑って」と運転手。
心底、「笑えるものか。こんな写真、妻に見つかったら、取材旅行とだまして、不倫旅行に行ったと思われるじゃないか。ああ、はやくホテルにたどり着きたい」と苦悶した。
ホテルに着いたのは、深夜0時だった。
2日目は、地元のマスコミに混じって、建設中の新函館北斗駅を見学。駅の周辺は区画整理された建設用地が広がっている。次にここを訪れるときは、がらりと様相が変わっていることだろう。新幹線の駅ができることで、都市計画は新しい未来を描くことになる。
そして、いよいよ函館から札幌へ。私は、北海道のスケール(縮尺)を間違えていた。函館~札幌間なんて、ちょっと遠出するぐらいの距離だと思っていたが、特急で3時間半弱を要する。地図上の距離感が本州とは異なる。
絵本のなかでは、クラーク博士とホーレス氏が「北海道も近くなった」と語るが、まだまだ遠い。内浦湾をぐるりと周りながら、旅の終着を待ち望んでいた。
札幌着14時17分。JRタワーの展望台からは規則正しく碁盤の目に並ぶビル群が360度四方にずっと続いている。およそ150年前に開拓団が移り住み、たった1世紀半でこんなに巨大な都市を築いてしまうその意志に改めて恐れ入る。
時計台での撮影を終えると、新千歳空港に向かった。
既に真っ白な紙に立ち向かう1年超にわたる旅が始まっていた。
読書人の雑誌「本」2017年2月号より