日本では本当に「富の集中」が進んでいるのか?
野村総研レポートを「誤読」してはいけない富の集中は本当か
中日・東京新聞が2月16日付の紙面やインターネット版で報じた『「富の集中」日本も資産の2割が2%の富裕層に』という記事に対して、大きな反響があったようだ。
確かに「格差の拡大」は、米国ではトランプ大統領の誕生、英国では国民投票によるEU離脱の選択の引き金になったとされる深刻な構造問題である。EUもよく似た問題を抱えており、オランダ、フランス、ドイツなどで今年行われる国政選挙の行方を大きく左右しかねないと警鐘を鳴らす向きもある。
それだけに、日本でも他の先進国並みに格差問題が深刻化していると主張する記事が登場すれば、注目を集めるのは当然だろう。
しかし、他の先進国と日本が抱える構造問題は本当に同じものなのだろうか。この問題に関連して、まず冷静に見つめる必要があるのが、各国の国力(成長力)だ。

IMF(国際通貨基金)が集計した各国別の実質GDP成長率(1990年から2015年までの25年間の平均)をみると、米、英両国がそろって2%台の高い水準を維持してきたのに対し、日本のそれは1%にも届かない低水準である。
そうした中で、米、英両国では、成長で得た国富を所得として分配する仕組みに歪みがあることから、資産格差が急ピッチで増幅され続けており、これが社会問題になっている。
一方、日本ではバブル経済の崩壊以来続く低成長が響いて、分配に回る国富が乏しく、分配の歪みに起因する保有資産の格差が生じにくい状況が存在する。
実は、中日・東京新聞が記事に引用した元ネタ(野村総合研究所レポート『日本の富裕層は122万世帯、純金融資産は272兆円』も、副題で『(富裕層と富裕層の資産が)いずれも2013年から2015年にかけて増加』としているだけなのだ。
しかも、増加ペースは、富裕層が保有する資産の伸びよりも、富裕層の増加ペースの方が高い。何が言いたいかというと、「(小)金持ちが増えた」ことを示唆しただけで、ほんの一部の富裕層に富が集中する欧米型の格差の進展があったとはどこにも書いていないのだ。
それどころか、同レポートは、富裕層が増えて富の分散が起きたうえ、最も保有資産の少ない(保有資産3000万円未満)階層が物理的に減ったというデータも示している。
このレポートは、同研究所のホームページで閲覧できるので、興味のある方にはご一読をお勧めする。(2017年2月16日東京新聞『「富の集中」日本も資産の2割が2%の富裕層に』)
それならば、いったい日本の本当の問題は何なのか。今週は、この問題を考えてみよう。