『逃げるは恥だが役に立つ』と『東京タラレバ娘』。「逃げ恥」「タラレバ」の愛称で呼ばれるこの二作品は、いずれもドラマ化され大ヒット。コミックスの売り上げも、紙と電子の累計で前者が330万部、後者が350万部、と好調なセールスを記録ししている(2017年3月現在)。
それぞれ3月と4月にコミックス最新刊が発売されることを記念して、両作品の担当編集者の対談をここに公開!「逃げ恥」「タラレバ」の誕生秘話と、ヒットの秘密を明かした。(取材・執筆/西森路代)
少女漫画のセオリーを覆しつつも
――まず、この二作品がはじまった経緯について教えてください。
鎌倉 いずれも女性コミック誌「Kiss」の連載作品ですが、「逃げ恥」は2011年の11月から連載がスタートしました。私は海野さんが20代の頃から担当させていただいていますが、20代の代表作にしようという意気込みで始めた『デイジー・ラック』という「Kiss」での初連載作品が、これからというときに打ち切りが決まってしまって……。
その後、『回転銀河』というオムニバスのシリーズはあったのですが、「Kiss」の連載は『後宮』『小煌女』と原作や原案があるものが続きました。『小煌女』の終了後に、次に何を描きましょうかと話をしているときに、海野さんから「契約結婚を書きたい」と提案されて、やっと現代もののオリジナル連載を描いてくれると嬉しく思ったのを覚えています。海野さんはアレンジものもとてもいいのですが、やはり現代もののオリジナル作品がずっと読みたかったので。
――契約結婚というと、女性漫画では王道ともいえる設定ですよね。
鎌倉 私も最初に聞いたときは、韓国ドラマの『パリの恋人』を思い浮かべていたんですけど、海野さんは、そういうシンデレラストーリーではなく、もっと冷静な職業としての契約結婚を描きたいということでした。その後、海野さんから『高慢と偏見』のような面も描いてみたいということを伝えられて、それは面白そうだな、と。王道と言われるテーマでも、視点を変えてまったく新しい作品にしてしまうところも、海野さんのすごいところです。
――『東京タラレバ娘』はどういう経緯で始まったんですか?
助宗 私は一巻の途中からこの作品の担当になったんですが、はじまりは東村さんの提案でした。ちょうど東京五輪の開催が決まったころで、東村さんの周りに「東京五輪がはじまるまでには結婚していたいから、いますぐ彼氏がほしい!」って言い出す独身の女の子がいっぱいいたみたいで。
それを見て東村さんは、「この子たちは、美人で仕事もできて頑張ってるのに、なんでこんなに焦っているんだろう」と思ったそうで、2020年というひとつのリミットを前に、焦ってもがいて頑張る女子たちを主人公にした漫画を描いたら面白いんじゃないか、という話になったんです。

その時代の読者や女性が感じ取っている空気をうまく作品にする、というのが女性漫画の醍醐味でもあるんですが、編集部としても、いまの女性が置かれている「仕事も恋愛も、いろんな選択肢があるはずなのに、どれもうまく選べない」という社会状況を感じていたので、東村さんのアイデアを聞いて、まさにそんな時代の空気感を取り込んだ、面白い作品になるだろうなという予感がしました。
東村さんは「瞬発力の人」。やりたいと思った時に発揮される力はすごいものがある方なので、じゃあいますぐやりましょう!ということで連載が始まったんです。
――設定はもちろんですが、どちらも「結末」がとても重要になる作品じゃないか、と読みながら感じていました。結末はイメージしたうえで、連載をスタートされたんでしょうか。
助宗 ある程度イメージしているものはありました。選ぶことに迷ってしまい、選びきれない女の子たちが、それでも結局最後には何を選ぶのか…ということを描くので、その結末はなんとなく共有していました。それと同時に、この作品は、少女漫画のいわゆるセオリーを裏切るものにはなると思いました。
少女漫画は女子がどんどん幸せになっていく過程を読むことがひとつの理想形だと思うんですけど、そもそも「タラレバ」は女性が悩んで苦しんで苦しみ抜くところを描いている。それは異例のことなんです。だから結末も、誰も見たことのないものにどんどんなるかもしれません。
でも、セオリーを覆しつつも、「最終的に少女漫画として覆せないものはなんなのか」を考えながら東村さんは描いているんだなと、思うようになりました。抽象的な言い方になりますが、主人公たちを苦しませはするんだけれど、彼女たちを不幸にすることはしない、ということです。まさにラストにかかわる部分でもあるので、これ以上は言えないんですが(苦笑)。