2017.06.08
# AI # ロボット

「人工知能が仕事を奪う」は本当か? いま人類が向かっている未来

「注意深い楽観主義者」であれ
金井 良太 プロフィール

グローバルなコミュニティを作る

金井 今年10月のイベント「AI and Society」では、このようなAIの社会への影響について考えている専門家が世界中からやってくるので、日本のコミュニティとどのような議論が交わされるのか非常に楽しみです。

このテーマについて、日本人は楽観的だという印象がありますが、これはCFIで注目しているAIの「ベネフィット(恩恵)」の部分とも関係が深いのではないでしょうか。

プライス教授 日本人がロボットの社会にもたらす恩恵などについてとても楽観的だという話は聞いたことがあります。

私自身は、楽観的に感じるときもあれば、とても悲観的になるときもありますが、もともと楽観的な方です。誰が言っていたのか忘れてしまいましたが、アシロマ会議でとても良い言葉を聞きました。

その人は自分を「注意深い楽観主義者」だと言っていました。どういう意味かというと、将来の課題について先に考えておくことで、自分自身の運命は自分で決められると考える楽観主義者だということです。そういう楽観主義者でありたいと思います。

金井 それは素晴らしい考え方です。「AI and Society」では、日本やアジアのコミュニティとの連携に関心が高いと聞いていますが、どのような交流を期待していますか?

 

プライス教授 今回、日本でシンポジウムを開催することで、日本や東アジアの企業やアカデミアにおけるAI開発者に、倫理的なAI開発を実現するためのコミュニティへ参加するインセンティブを感じて欲しいと望んでいます。

すでにアメリカでもイギリスでも、多くの組織がこのコミュニティに参加しています。ただし、これは私たちのコミュニティだと思ってほしいわけではありません。私たちは、グローバルなコミュニティを立ち上げるために貢献しようとしているのです。

先にも述べましたが、この活動は派閥ごとに分かれて競争し合う関係になってしまってはダメなのです。つまり、このコミュニティの所有者は世界にいてはいけないのです。

コミュニティをどのように作っていくかを考えるときに、どこか特定の場所や団体が支配するのではなく、グローバルなコミュニティを作ることをはっきりと意識しておく必要があります。

金井 欧米と比べると、このような議論は日本ではまだまだ進んでいないような印象があります。もちろん、議論は行なわれ始めているのですが、このようなグローバルなコミュニティを作るところまでは進んでいません。

また、日本の企業文化を考えると、研究開発は内部で行なわれており、「Partnership on AI」のようなものもできていません。今回のシンポジウムでのインタラクションで、日本のコミュニティにどのような影響があるか気になります。

プライス教授 欧米でも必ずしも議論がそこまで進んでいるわけではありません。

しかし、Partnershipができたことで、AI企業のビッグプレイヤーが参加してくれることになりました。AIと倫理などをテーマとした会議への参加者の数は、まだまだ少なく、5000人程度でしょう。問題の大きさに比べたら、本当に非常に小さなコミュニティです。

スチュワート・ラッセル(カリフォルニア大学バークレー校教授)の講演は何度も聞いているのですが、「もし人間レベルのAIができてしまったらどうするか?」と講演の最初の方のスライドで問うのです。そして次のスライドで、「これは人類の歴史の中で最大の出来事になる」と書いています。

誇張して大きなことが言いたいのではなく、本当にそのとおりだと考えているのです。講演の途中で、「産業革命や言語の誕生とくらべても最大の出来事なのでしょうか?」と手を上げて質問する人がいます。

スチュワート・ラッセルは、AIが成功したら、それ以上の一大事だと考えています。例え、同じレベルの大事件だったとしても、それだけでもとてつもないことですが――。

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