2017.05.27
# ライフ

オックスフォード卒、外資系投資ファンド勤務の才女「まさかの転身」

「仕事がつまんなくて」NPO活動に
中村 安希 プロフィール

「ボランティアは不快です」

香港に限らず、以前日本で取材したNGO職員からもよく似た話を聞いたことがあった。

就職するときに、「食い扶持を自分で確保できるなら受け入れます」と言われたらしい。つまり、団体として給料は出せないが、自ら助成金獲得に動くなどして収入面で自立できるのでれば、メンバーとして一緒に活動する機会は与えますという意味である。NGOへの就職を語る上で、給与は切っても切り離せない大問題なのだ。

「離職の原因で多いのは、もともとの給料が安い上に、昇給がなくてモチベーションが維持できないというパターンです。最初はよくても、何年もやっているうちにバーンアウトしてしまうんですね」

そう話すSさんも、実は今まさに転職活動中。今の職場は魅力的ではあるものの、急成長中の団体にありがちな人事の混乱とボランティア人員との関わりがストレスになってきたからとのこと。

 

彼女は割とはっきりと「ボランティアが不快なんです」と言った。日々活動を支えてくれているボランティアではあるが、「タダで奉仕してやってるんだから、というボランティア側からの要求の高さと親御さんからの無理難題に耐えられなくなってきて…」と彼女は言った。

「親御さんからの無理難題って、なんですか?」

「子どもにボランティア活動をやらせたい親が、やる気のない子どもを無理やり押し付けてきたり、学校に提出する活動証明書を作れと言ってきたり。むちゃくちゃで」

受験戦争が熾烈な香港では、入試での内申点を上げるために、親が子どもに「ボランティア実績」を積ませる傾向があるらしい。

そこでSさんたち団体スタッフは、ボランティアにイヤイヤ参加してくる若者や、親が子の代わりにボランティアをやるから「子がやったことにしろ」と言い出すようなモンスターペアレントたちの対応に日々追われることになる。

Sさんは、現在のような人の善意に頼らなければいけない活動スタイルの団体ではなく、ボランティアとの関わりが少ない団体へ転職したいとの希望を語った。

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安い給料で生活できるの?

ところで、給料が安いNGOなどへ軽々と転職を決めるSさんについて、少し疑問に思っている日本の読者もいるかもしれない。安い給料で生活していけるのか? 転職ばかりして将来は大丈夫なのか? など。

Sさんに限らず、香港で話を聞くことができたN女たちは、日本の女性ほど生活費の心配をしていないとの印象を受けた。というのも、家賃が異常に高い香港では社会に出た後も一人暮らしはせず、親と同居する人が多いため、給料が安くてもとりあえずやっていけるということらしい。

日本のN女たちの場合、結婚を機にNPOへ転職する人も多いが、これは結婚によって「家」を確保できることが大きい。私が東京で取材をしていた間にも、独身で頼れる実家も近くにないという一人暮らしのN女は離職していた。

また、香港では何度も転職するのが普通であり、人々は営利企業と非営利組織の間も自由に行き来している。

香港のN女たちの話からつくづく感じたのは、香港のキャリア形成では「どこに勤めたか」ではなく「何をやったか」が重視されるという点。そして、転職するたびに新たに獲得できる「ネットワーク」の広さがキャリア形成に必要不可欠であるという点だろう。

「ジョッキークラブの仕事は退屈でしたけど、多くの取引先に人脈ができたのはありがたいことでした。社会貢献事業の企業も、愛国教育など共感できない部分はありましたが、行政機関や学校などにネットワークができましたし、教育関係者とどう関わっていけばいいかというノウハウも身につきました。それらは今後の転職活動や仕事をしていく上で何かと役立つと思います」

Sさんは、ゆくゆくは企業のCSR部門で働いてみたいとのこと。色々な経験を積んできた彼女であれば、チャンスに巡り会う日もそう遠くはないはずだ。

いや、本当に、もう明日か明後日には「CSRに転職したよ!」と、いきなり報告が来るかもしれない。なぜならその身軽さこそが、『香港のN女』だからである。

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