2017.05.30

安全を最も重視する東北電力も、政府の圧力に屈してしまうのか

じわじわ迫る「東電との合併」の影

日本一高い堤防が示すもの

東日本大震災の際に、深刻な事故を起こした東京電力の福島第一原子力発電所と対照的に、ボヤ程度の被害しか出さず、3ヵ月にわたって360人を超す人々の避難所にもなった東北電力の女川発電所で、日本一高い29mの防潮堤をはじめとした新たな安全対策が大詰めを迎えている。

背景にあるのは、電力自由化が進み競争が激しくなる中で、最終利益の規模が東京、関西、中部の電力大手3社の5~6割程度にとどまる収益力の弱さを補うため、主力の原子力発電所を1日でも早く再稼働するという経営戦略だ。

東日本大震災では震源に最も近く、巨大な津波や揺れの激しい地震に襲われながら、大きなトラブルを防いだ安全対策をさらに強化して、運転再開に漕ぎ着けようとしているのである。

しかし、東日本大震災以降、日本の電力・原子力政策を動かしているのは、政治的な思惑に満ちたレトリック(巧言)だ。その結果、政府は事故原因をきちんと検証することなく、「事故を起こした原発とは原子炉の型が違う」という理由で、西日本各地のPWR(加圧水型原子炉)原発の再稼働を優先してきた。

さらに、BWR(沸騰水型原子炉)原発の中では、事故を起こした当事者である東京電力の柏崎刈羽原発を「スタッフが多くて新規制基準への適合体制が構築し易い」という理由で、他社に先駆けて優先審査対象としてきたのである。

東日本大震災から早くも6年4ヵ月以上が経つが、こうした「レトリック行政」への反省の声はほとんど聞かれない。果たして、業界5位で政治力の乏しい中堅電力会社の、安全第一を掲げる”バカ正直”な取り組みが功を奏す日は来るのだろうか。

先週火曜日(5月23日)のこと。筆者は仙台市から約2時間、車を走らせて、ようやく最初の目的地である小屋取(こやとり)漁港に辿り着いた。

この漁港は、海岸線が複雑に入り組む牡鹿半島の東側、太平洋を望む地に位置している。波の穏やかな小さな湾の南側に目を向けると、まるで城壁のような日本一高い防潮堤が姿を現した。

写真A 女川発電所全景(小屋取から撮影)

小屋取漁港を初めて訪ねた5年前には影も形もなかったものだが、今回は写真Aにあるように、女川原子力発電所を覆い隠すかのように巨大な壁となっていた。以前、何もなかったことは写真Bの通りだ。

写真B 2004年12月撮影 発電所外観(小屋取より)

堤防の巨大さは、左隅に映った大型トラックとの比較が可能な写真Cから見て取れるはずである。

写真C 防潮堤(北側展望台より)

この巨大な防潮堤は、東北電力の海輪誠前社長(現会長)が東日本大震災の直後、さらに巨大な津波が押し寄せたとしても、決して福島第一原発のような事故を起こさないという決意から建設を命じたものだ。

何度かの設計変更があったが、最終的には、「この場所に作れる最大のものを作れ」という前社長の指示で、その高さを海抜29mに決定した。

中部電力が昨年春、完成させた浜岡原子力発電所の防波壁に総延長では及ばないが、高さ(22m)で上回る防潮堤になるという。原発の付属施設に限らなくとも、防潮堤としての高さはおそらく日本一、いや世界一だろう。

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