「引き裂かれた文科省」現役官僚たちの胸の内

官邸が怖くて口には出せないけれど…
週刊現代 プロフィール

安倍はイヤイヤ次官にした

寺脇氏が把握しているだけでも、その後も前川氏は夜間中学、外国人学校、障害のある子供が通う学校、不登校の子供が通うフリースクールなど、時には公務として、時にはプライベートの時間を割いて、何度も現場に通っていたという。

さらに近年は、東日本大震災の被災地や、貧しい子供たちを支援するNPO団体にも、ボランティアとして素性を明かさずに足を運んでいた。

「だから、今回のことも彼らしいなと思った。あの会見のあと、電話して『君を疑うわけじゃないが、あんな言い訳をして、世間からどう思われるか分かってるのか』と言ったら『分かってますよ。菅さんにあんな風に言われるのも覚悟していました。でも本当なんだから、ああ言うしかなかった』と言って笑っていました。バカ正直な男なんです」(前出・寺脇氏)

前川氏が奈良にルーツを持つ素封家に生まれ、何不自由なく育ったことは、本誌前号でも報じた通り。そうした出自を含めて知っている前川氏の同輩たちの中に、彼の「出会い系バー通い」に呆れはするが、やましい点があると考える官僚は一人もいなかった。

 

ただ、前出と別の文科省キャリア官僚によれば、前川氏がかくも激しい官邸からの個人攻撃を受けることには、納得せざるを得ない面もあるという。

「前川さんは'94年から故・与謝野馨文部大臣の秘書官を務め、民主党の野田政権下で官房長になりました。しかし、'12年暮れに安倍政権が誕生したとたん『民主党寄り』と判断され、翌年夏の人事で外されています。官房長は役所と官邸の窓口にあたるポストですから。

その後も、前川さんは安倍政権について『法案の通し方が強引すぎる』などと批判的な意見を公言していたので、『これで次官の芽はなくなった』と見られていた。それが、昨年夏の人事で一転してトップです。与謝野さんと中曽根(康弘元総理)さんの取りなしがあったのだろう、と言われています」

前川氏の妹が、中曽根氏の長男で参議院議員の弘文氏に嫁いだことは、夙に知られている。

自らの「最終目標」として憲法改正をブチ上げた安倍総理は、同じ改憲派の「元祖」ともいうべき中曽根氏と微妙な関係にある。

かつて小泉政権時代、安倍総理は自民党幹事長として、「73歳定年」の勧告を中曽根氏に伝える役目を負った。それが、二人の間に影を落としているとみる自民党関係者も多い。

「民主党時代に重用された官僚は、大なり小なり公安の監視対象になっています。しかも前川さんは中曽根さんの姻戚で、政権にいちいち異議を唱える。安倍総理はイヤイヤ次官にはしたけど、面白くないのは当然です」(自民党閣僚経験者)

今年の1月、前川氏が事務次官を辞する直接の原因となったのは、文科官僚による組織的天下り問題の発覚だった。

その発端として政府の調査を受けた元高等教育局長・吉田大輔氏は、早稲田大学に教授として天下る以前、前川氏とともに加計学園の獣医学部新設に批判的な文科省幹部として知られていた。

「大学を担当する高等教育局長が私立大学に天下るのは異例ですし、斡旋を受けたことそのものについては、処分を免れない。これは文科官僚なら誰しもそう思います。

しかし、文科省だけが『狙い撃ち』されたことには、やはり一抹の疑念を抱かずにはいられません」(前出・文科省ベテランキャリア)

官邸と文科官僚の暗闘は、半年前から始まっていたのかもしれない。

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