英国・EU離脱派敗北で燻りはじめた「再選挙の可能性」
ここが自由貿易陣営の正念場だ保護主義が変調をきたしている
英、米両国を中心に吹き荒れていた保護主義が変調をきたしている。
その第一は、「ハードブレグジット(=英国のEUからの強硬離脱)」を掲げるメイ英首相の党勢拡大の目論見が外れ、現地時間の先週木曜日(6月8日)の総選挙で、与党保守党が過半数割れという敗北を喫したことだ。
そして第二が、同じく現地8日のコミー前FBI(連邦捜査局)長官の議会証言で、「米国ファースト」という保護主義フレーズを繰り返してきたトランプ大統領自身の「ロシアゲート」問題に関して、司法妨害の疑いが鮮明になったことである。
いずれも保護主義的な政策が否定されたものとは言えないが、格差社会に苦しむ人々にとって耳触りが良い両首脳の主張は、引き続き支持を得られるのか。新たな波紋を呼ぶことは確実だ。
5月末、日米欧の先進7カ国(G7)は、イタリア南部のシチリア島タオルミナで開いたサミットの首脳宣言で、これまで決まり文句となっていた「あらゆる形態の保護主義と闘う」という文言を盛り込めず、「不公正貿易に対抗しながら、保護主義と闘う」とトーンダウンせざるを得なかった。

「互恵的(reciprocal)な貿易が重要だ」と主張したトランプ米大統領を説得し切れず、G7の結束は崩壊に瀕したのだ。
英、米両国で起きた今回の動きは、トランプ大統領とメイ首相が国内支持基盤をつなぎ止めようとして、一段と頑なな保護主義に走りかねないリスクもある。両国が速やかに自由貿易推進に回帰するとは考えにくい。
しかし、世界では、テロの頻発や北朝鮮の核武装の脅威など、不安定さが増す一方だ。各国が保護主義に走り、世界貿易が縮小して戦争に至った第2次世界大戦の轍を踏まないためにも、今こそ日本、ドイツ、フランスなどの先進国は、英、米両国首脳に冷静な対応を促し、自由貿易に基づく開かれた国際社会の再構築に舵を切り直さなければならない。