106年を迎える名門企業で、創業家と経営陣の溝が埋まらない。「本意ではない」としながらも、経営陣の再任人事に反対することを決断した創業家。その当時者が、胸の内をすべて明かす。
父・出光佐三の理念
出光興産が6月29日に予定している株主総会で、月岡隆社長など現経営陣が再任される人事に反対する――。
6月5日、出光興産創業家の代理人弁護士である鶴間洋平氏は緊急会見を開き、出光創業家の意向を「代弁」してみせた。
創業家が現経営陣の再任に「NO」を突きつけたのは、経営陣が昭和シェルとの誤った経営統合を進めようとしているというのが主な理由。
昨年の株主総会でも経営陣の再任に反対表明していたことから、両者のバトルがいまだ続いていることが明らかになった形である。
今回、その反対表明をしている、出光興産創業者出光佐三氏の長男であり、同社名誉会長を務める出光昭介氏が、本誌に独占手記を寄せた。
なぜ経営統合に反対するのか、経営陣との話し合いはどうなっているのか、出光興産の将来はどうなるのか――。以下、その胸の内を赤裸々に明かした手記である。

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出光興産と昭和シェル石油との経営統合をめぐってお騒がせしておりますことについて、まずは心よりお詫び申し上げます。
私としては、この経営統合には反対であり、その気持ちが変わることはありません。
経営統合に反対する理由については、これまで、私の代理人の鶴間弁護士から様々な形ですでに説明してもらっておりますが、今回、このような機会を頂きましたので、改めて、これまでの経緯を振り返るとともに、私なりの言葉で、なぜ経営統合に反対しているのかということについて、述べることとしたいと思います。
私の父の出光佐三は、戦後、日本の石油元売各社が、国際石油資本の傘下に入る中、出光興産が民族資本の石油元売会社であることにこだわり続けました。
そのために、筆舌に尽くしがたい多くの苦難があり、事業存続の危機を迎えたこともありましたが、社員・販売店と一体となってこれを乗り越えてきました。
父が、出光興産が民族資本の会社であることにこだわったのは、国際石油資本による市場の支配を打破し、消費者が、よりよい条件で石油を入手することができるようにしたいという思いとともに、国家のエネルギー政策上も、国際石油資本に依存せずに石油を供給することができるようにしなければならないという思いがあったからです。
父は、自社の利益だけではなく、常に、消費者や国家のことを考えて事業を行ってきました。そして、父は、何があっても、この理念を変えることはしませんでした。出光興産はこのような父の理念を受け継いで、これまで事業を営んできたわけです。
父の理念は、「人間尊重」「独立自治」「消費者本位」といった様々な言葉で受け継がれ、今もなお、出光興産の理念として生き続けています。
市場の縮小は理由にならない
私は、この出光興産の理念を守り続けなければならないという強い思いを持っております。
しかし、誤解をしていただきたくないのは、決して理念を守ることだけを目的として、経営統合に反対しているわけではありません。
出光興産は、その理念こそが強みであります。出光興産がここまで成長することができたのは、経営陣・社員・販売店が理念を共有し、一体となって事業を行うことができたからです。
そして、出光興産の理念に社会から共感、評価を得られたことが、消費者の皆様からの出光興産の支持につながっていると考えています。
これを失ってしまっては、出光興産が社会から評価される会社であり続けることは難しく、他の会社との差別化を図ることもできないと考えるわけです。
今般、石油市場の縮小への対応が、経営統合の理由とされているようですが、だからといって、出光興産が理念を捨て、自己否定をしてしまうと、取り返しのつかない損失が発生すると考える次第です。